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2015年12月27日日曜日

Case #59 - 愛情を求めている大人

グループセラピーを行っていくなかでトレバーの中の深い悲しみがあらわにされた。
その日、わたしはグループセラピーで遊びをつかいながら、自分の中の「攻撃性」を見つけ出して行くことをクライアントに教えようとしていた。参加者達はペアになり向き合って、手のひらを合わせてお互い押し合った。ルールは簡単で、相手と同じ力で押すということだった。そのため、より力の強い者は自分の力を加減する必要があった。
トレバーはグループの中でも一番力が強い人だった。彼がこのアクティビティをしている最中、つい夢中になり相手を強くおしてしまい、相手の男性は後ろにひっくり返ってしまった。
彼は相手に勝とうとして強く押してしまったので、わたしはこのアクティビティの目的は「競争」ではなく、「相手と同じ立場にたって向き合う」ことだとトレバーに教えた。
すると彼は悲しそうな顔をしてしまった。それはわたしが彼の存在感があまりにも強すぎて他の人々と同じ立場に立って話すのは難しいのではと指摘したため、トレバーが今まで心の奥底にしまっていた感情がいっきに出て来てしまったためだった。
わたしがトレバーに今どのようなことを感じているか聞くと、「腕には怒り、心には悲しみ」と彼は答えた。
そこでわたしはあるアクティビティを提案した。私たちは二人ともたって、わたしは彼と手のひらをあわせ、彼に力強く押しながら腕の中にある怒りを感じ取るようにといった。そして今度は押すのをやめて、自分の心の中の悲しみを感じ取るようにといい、わたしは彼を抱きしめてあげた。そして一連の動作を何回か繰り返した。
このアクティビティをすることにより、彼は怒りを発することと愛されること、両方を体験することができた。同じ動作を繰り返して行くなかで彼は「パパ」といった。それでわたしは彼の両極端な感情は父親との関係からきているものだったということが分かった。しかし、今はその過去を深くほりさげていく必要はなく、ただ今いる中彼との向き合いというものが必要だったのだ。
トレバーは「わたしはずっと師となる人を探していたのです」と言った。なので、わたしは彼が本当に求めているものは誰かに自分を見てもらうことなのだとこたえた。こうすることにより、彼がわたしに一方的にあまえるのではなく、彼自身も物事を変えていくことができるというのを教えたかった。
そして私たちは抱き合い、彼はわたしを地面から持ち上げた。わたしも彼を持ち上げると彼はわたしを抱え、子供の遊びのように何回かわたしを持ち上げたままぐるぐるとまわった。わたしも彼がしたように、同じようにしてあげた。
こうした後、かれは心がとても落ち着いたようだ。おそらく、それはやっと彼の必要としていた愛情をうけとることができたからだ。
もちろん、わたしのように彼を持ち上げたりするのは必ずしも誰もができることではないが、どのような方法を使ったとしても、クライアントが必要としている立場で向き合うことは可能である。そして、この「向き合う」ということこそ、ゲシュタルト法の根本にあるものなのです。


2015年12月16日水曜日

Case #58 - 言葉の向こうにあるもの

クライアントが様々な問題について話す時、その中で一番の「フォーカス」(焦点)を探りだすために、私たちは常に色々なものに耳を傾けていないといけない。
トレバーにとってのフォーカスは今の家族関係と関連していた。彼はとてもスピリチュアルな面があり、過去には僧侶にもなろうと思ったほどだ。彼はバツイチで、現在2回目の結婚をしており、子供もいて、家族はとても大切にしていた。
そのような安定した家族関係にありながら、彼は落ち着きがなかった。彼の現在の家族関係の反対側にあらわれたイメージは「山」というものだった。私たちがこれを探って行く中で分かったのは、トレバーにとって「山」とは自然との一体感、簡素な人生、自然保護、地とのつながり、スピリチュアルなことへの時間を持つ、ということだった。
ゲシュタルト法では、「両極端」に目を向ける様にしている。また、それが「割れて離れていく場合」はもっと注意して見る様にしている。そして、両方に注意を向けて、クライアントがどちらも受け入れることができる方法を見出して行く。
なので、わたしはトレバーの「家族を持つこと」、そして「地への想い」について彼の気持ちを聞き出そうとした。彼は新しく家族を持つことには抵抗を感じていなかったが、どこか心の奥底で満足していなく、落ち着きがないと言った。
彼と話して行く中で、彼は今の人生を選んだ自分と完全に和解できていなく、心の半分は今の人生、もう半分はどこか夢の世界にいるということが分かった。
わたしはトレバーに、自分も過去に同じような経験をしたので、彼の気持ちがよくわかるということを一生懸命伝えようとした。このようにクライアントとのつながりを表す言葉は、「共感性」を示すだけではなく、同じ人間として共有するために重要である。
わたしは自分自身のスピリチュアリティ、自然、家族に対しての想いや、自分が僧侶にはなれないという想いなどを話した。私たちはその後、しばらく深い沈黙の中にいた。そこには言葉で表せない想いがあったからだ。彼は自分で人生の決断をし、その結果このような想いを体験していたので、わたしには彼を助けることはできなかった。それは良いことでも悪いことでもなかった。彼の選んだ人生は痛みを伴うものだったが、満足を与えるものでもあった。その中では得るものもあったし、失うものもあった。そこには問題解決の促進も必要なかったし、誰かに自分の人生を解釈して教えてもらう必要もなかった。
ただ必要なのは、自分の心の中の和解と解決だった。
突然、私たちの心の中で何かスイッチが入ったように、場の雰囲気が変わった。
彼はわたしに「ありがとうございました」と一言お礼をいったのだ。ただ、それで十分だった。
セラピーでは話し合いをし、助け、物事を探るときもあれば、ただあるものをそのまま受け入れる時もある。何かを変えることができないとき、ただ相手と一緒にその場にいる、というのも一つの方法だ。
今回のセッションはとても心の奥深くに語りかけるもので、私たちはそれを感じることができ、トレバーは自分の気持ちを誰かに分かってもらうことができたと感じ、「割れた心」がやっと一つになってきたように感じることができた。

2015年12月8日火曜日

Case #57 - 見方についてほしい

アナベルが話し始めた瞬間からわたしは嫌な気持ちがわいて来た。彼女は明らかに自分中心の「ストーリー」を語りたく、自分がどんなに他の人に嫌な想いをさせられたか、また彼女がどんなにか家族を助けようとしていたか、そのようなことを語りたかったのが分かった。わたしは自分が早く話しを終わらせようとし、彼女の話に耳を傾けたく無い自分がいるのが分かった。彼女はわたしが介入するすきを与えずにただ延々と話し、ただ文句をたらしたかっただけのようだった。
しばらくして、彼女はその「ストーリー」に関してわたしに質問を投げかけてきたりしたが、やはり、わたしは居心地が悪かった。彼女は色々と質問をしたかったようだが、ただわたしを自分の今の状況を解決する専門家にしたてようとしているようだった。
しかし、彼女の希望とは反対に、わたしは自分の考えは何一つ述べなかった。わたしは彼女と対話をし、彼女の質問には答えることはしなかったが、逆にそれを意見文として言い換えるように言った。これはゲシュタルト法ではよく利用される方法だ。それは、質問をするということは責任回避であったり、人との関係の中であらわになるものであるからだ。「意見文」に言い換えることで、自分がどのような者であるのかに対して責任を持ち、自分がどう感じて、どうして欲しいのかをもっとはっきりと伝えることができる。
わたしが何も言わなかったのは、自分の中でも様々な感情が行き来していて、落ち着いてそれが何であるかをその場にいてもっと理解したかったからだ。わたしは自分の気持ちを受け止め、どうしてこのように自分が反応しているのかを理解しようとした。
アナベルが話す度に何度も同じような感情が引き起こされ、それは彼女に質問を意見文へ変える様にと言った時も同じだった。しかしこうしないと彼女の悪循環を止めることができなかったし、わたしは彼女がわたしに差し出していた「偉大なる知恵のある人」という役割を受け入れるようなことはしたくなかった。
しかしこうすることにより彼女の興味をひくことができた。わたしが自分の感情を表す事なく、彼女に自分の体験を振り返らせるよう促したことにより、アナベルは自分の感情に少しずつ向き合いはじめることができた。
わたしが彼女と信頼性について話していると彼女は急に「正直に言っていただきたいのですが、わたしのことをどう思っていますか?」
この質問は私たちの関係を深めることのできる手段であったので、わたしは息をつき、慎重にことをすすめることにした。とても繊細で慎重を要する質問であったが、今までの中でもっともオープンであり彼女がわたしを信頼していることを示しているものであったので、わたしはよい質問であると思った。
わたしは自分の気持ちをしばらく振り返る時間を持つことができていたため、直接彼女に対してではなく、自分の(彼女との対話の中での)体験に関して話すことができた。
そこで、わたしはこう言った。「あなたが話す度に、あなたの見方になってほしい、と言われているような気がします。わたしはあなたに同意し、あなたがどのように家族を見ているかやあなたがどのように家族から扱われていたかということに賛成して同意したい。でも、わたしはあなたのことを拒否したくもなければ、あなたのチームに加わりたくもないので、居心地がとても悪い。」
こうすることにより、わたしは自分の体験を正直に述べると同時に、彼女に応答する余地を与えることができた。こう答えることは彼女を侮辱する言葉ではなかったし、重要なフィードバックでもあった。アナベルはにこっと笑い、言った。「ありがとうございます。今まで他の人もわたしに同じようなことを言っていたのですが、あなたほどはっきり言ってくれた人はいませんでした。今言われたことがどのようなことか、わたしも自分で理解しています。わたしは無意識のうちに、他の人を自分の見方につけようとしていると自分でも感じているのです。」
そして、私たちは今まで以上にお互い素直になり話すことができた。わたしは「敵・見方を作る」のは楽しいことでもあり得ると言い、子供達もよく遊びのなかで見方や敵を作って遊んでいることを彼女に気づかせた。わたしたちは他にも色々なことを話し合い、アナベルの緊張が和らいでくるのが見えた。そして、わたし自身もやわらいできたのだった。わたしは自分の心の体験を言葉に出すことにより、心の状態が変わってきたし、彼女は「誰かに見てもらう」ことを体験することができた。
ゲシュタルト法はこのような "I-Thou"(わたしとあなた)の体験を求めていて、クライアントの人間関係を深める基礎である。


2015年11月27日金曜日

Case #56 - 誰かにかまってもらいたい女の子

ウェンディの課題は新しい人生のパートナーが欲しいということだった。彼女はバツイチで、自分のビジネスを持っていた。彼女は自分が従業員に対してすぐいらいらし、とても事務的で、自分の弱さを決して見せないということを話した。そして、わたしがとても忍耐強く彼女の話を聞いている様子とは対照的であることを話した。
わたしは上の立場にいて、「力を」持つというのはどのような事かを彼女に話した。それは事務的ではっきりと物事を言い、物事をコントロールすることができる快感があり、常に自分がボスでいれる、ということだった。
わたしがこれらのことを話している最中に彼女は手をこまねいていて、小さい女の子のようだった。わたしは彼女に自分が心の年齢を聞くと、彼女は「10歳」と答えた。なので、わたしは彼女に10歳の時に何が起こったかを聞いた。
更にわたしは彼女の家族の中での「忍耐、がまん」がどのように表れているかを聞いてみた。ウェンディの父親は彼女が10歳の時に学校の成績が下がっているからと言い、彼女を叩いたのだった。また、父はよく弟にも暴力をふるっていた。しかし公では彼はとてもおちついていて、他の人のために時間を作れるような人だった。
彼女の父がそのような人だったので「もしかしたらわたしが落ち着いて忍耐強く聞いているのを見て、父親のようにいつ爆発するのでは、とびくびくしているのでは無いですか?」と聞くと、彼女はうなずいた。
彼女は自分は男性を信じることができないことが問題だと言った。最初の夫もまた彼女に対してすぐ怒る人で、彼女が彼のご機嫌取りをすることにしか興味がなかった。彼女は、今はただ新しいパートナーを見つけたいということを言った。
彼女は自分の成績が下がったのは全寮制の学校に言っているときにとてもひどくいじめられたからだったと言った。しかし彼女の両親はそんなことは知らなかったし、彼らにとってはそのようなことはどうでもよかった。だから、彼女は子供の頃に孤独を覚えていたのだ。わたしは彼女に近寄りながら、彼女がとても繊細であり、弱い者であるということを語りかけ、心の中の子供である彼女は誰かのアジェンダの一部として生きるのではなく、彼女自身として見てもらう必要があることを語りかけた。彼女が必要としているのは、ただよい結果を求めている人ではなく、彼女の苦しみを分かってくれる人だった。
彼女は今まで背負っていたものがとれていき、次第に泣き始めた。わたしは、彼女がいかに大切な人であるかを話し、誰のアジェンダにも左右される必要は無いということを話した。彼女はこのように誰かに見てもらうことを心の底から必要としていたようで、私たちはしばらく、ただそこに座り、わたしは彼女にこの大切な時間を味わうよう促した。
彼女が誰かとまた新しい関係を歩む前に、自分の心のケアと成長が必要だということをわたしは指摘した。
ゲシュタルト法ではただクライアントの目の前にある問題だけにフォーカスするのではない---セラピストがそれ以上に見えてくるものを発見ことが大事なのだ--時たまそれはクライアントが全く意識していないことでもある。セラピストがその表面下にあるものを見つけたら、次はそれをクライアントの目の前に持って来て、どうしてそれが問題となっているか、その背景を調べることだ。大体は家族と関係していることだが、必ずしもそうではない。そうしてから、そのフィールド(クライアントに関係する背景)を現在の問題と照らし合わせ、セラピーの中で取り扱っていく。
こうすることにより明確なセラピーのゴールが見えてくる。今回の場合、ウェンディがはじめに言っていた、「新しい人生のパートナーを見つけたい」ということにあたる。


2015年11月21日土曜日

Case #54 - 「悪魔」がいるのなら、「神」も存在するのではないか

アンジェリカは今は職を変えてはいたが、つい最近まで医師として働いてた。彼女は一児の母で、もう一人子供をほしがっていたが、新たに子供を授かることに恐れを憶えていた。私としばらくの間会話をすると、彼女は私にどのように思われているかが気になるといった。なので、私は彼女との親近感を深めようとし、彼女が夫からもらった美しいブレスレットをほめたり、目に見えてくる情報を言葉にして彼女に伝えた。
アンジェリカは産婦人科医で、仕事の一部として人工中絶を行っていた。その時は自分の仕事なので、何も感じずに手術を行っていた。しかし、彼女が赤ん坊を分娩させる時でも、特に喜びは感じなかった。それもまた、「自分の仕事の一部」であったからだ、と自分には言い聞かせていた。
数年後、彼女はセラピーを通して自分の心に今までたまっていた感情を出すことが出来た。その中には中絶を行うことによる心の痛みも含まれていた。これは彼女の政治的考えやイデオロギーに関係するものではなく、10年以上胎児を中絶する手術を行うことによる感情的な圧迫感だった。
また彼女は最近流産を経験しており、それを自分に対してのばつだと感じていた。彼女は、頭痛がする以外は体が無感覚で麻痺していると言った。彼女はとても辛そうにしていて、泣き始めたので、私は一旦立ち止って休憩をしよう、と提案した。人は、自分が受け入れることのできる以上の激しい感情に対面する時、機能するのをやめてしまうのだ。そのため、このような激しい感情をクライアントが体験している時、そのまま続けようとするのは逆効果になることがある。こうして少し立ち止まることにより、その感情から一歩退くことができた。私は、今、彼女と共にこの場にいるのだということを伝えようとし、彼女に対しての想いを言った。それは彼女への深い哀れみであり、彼女に対して批判的な想いはこれっぽちも無いのだ、ということだった。それを聞き彼女は少し落ち着いた。
胎内にどのようなものを感じるかと聞くと、「暗黒」と彼女は答えた。やはり彼女はこの激しい感情に圧倒されていた。彼女は自分の殻に閉じこもろうとしていたので、私は彼女が外界とのつながりを失わないように、彼女とアイコンタクトをとる様にした。私は彼女のブレスレットを見て、このブレスレットと同じように彼女の体内には他の色も存在するように思えてならない、と言った。そのブレスレットは黒いビーズ以外にクリスタルや、美しいピンクのビーズもついていた。私は、ピンクのビーズはあなたの胎内の色と似ているだろうねと言った。彼女は医者だったのでこのことは知っていたはずだ。私はこうすることにより、彼女をあいまいな「暗黒」色の投影から、もっと明確な命や血のつながりへと意識を導こうとした。
アンジェリカが話しているとき、私は彼女が拳を握りしめているのに気がついた。ゲシュタルト法ではエネルギー表現を無意識なところから、意識的にすることを重視しているので、私はこのことを彼女に伝えた。
それを聞き、彼女は「怒りを感じる」ことを教えてくれた。私もいままでの会話から彼女が怒りに満ちていたことは分かっていた。ゲシュタルト法ではこれを「emerging figure」(出現するもの)と呼ぶ。これはクライアントの問題を象徴するものを示していて、そのことがクライアントの生活の全てにはっきりと現れ、時には大げさに表現されて現れることがある。
つまり、「怒り」というものは彼女が変化を起こすために必要なエネルギーであったのだ。しかし、ただ枕をなぐったりすることなどで解決する簡単な問題ではなかった。
私が彼女に「誰に対して怒りを感じるのか」と問うと、彼女は「私自身」と答えた。
私は彼女が自分自身をどのように評価しているかを聞いてみた。彼女は、自分は悪魔のような人間で、どんなにか酷い人間であり、これ以上子供など授かる資格は無いのだ、と自分に言い聞かせていたそうだ。これらのことを言葉に表して表現することは彼女にとって痛みを伴うものだったので、私はまたしても彼女にいったん深呼吸をし、少し間をおくように促した。
私が彼女に何か宗教的な信仰を持っているかと聞くと、彼女は「いいえ」と答えた。
彼女の地獄のような状況から何か救いが無いかと思い、私は「もし悪魔がいるのなら、どこかに神もいるはずだ」と彼女にいった。ゲシュタルト方法では「完全性」へと導くために物事の両極端をクライアントに見せる様にしていて、私もこの方法をとった。
彼女が私の意見に賛成したので、私は「悪魔」と「神」を示すオブジェを2つ選ぶように言った。彼女は「悪魔」を示すほうを持ったが、「神」を示す物の隣においた。「神様は寝ているから起こしたいの」と言い、彼女は床をばんばん叩いたが、「神」のオブジェは何回も倒れるだけだった。彼女は「神」を象徴するオブジェに自分から起き上がってほしかったのだ。なので、私が「神の立場」になり、「神」を示すオブジェを立たせてあげた。
私がアンジェリカに「神」という象徴的な存在を受け入れるように促すと、彼女は急に疲れが出て来たので、私は少し休むように言った。彼女がわたしにもたれかかってくる時に、「目覚めたら、胎内に命が吹き込まれてきているのを感じてくださいね」と言った。
彼女は数分感休んでから目をあけた。そして、確かに「神」から命の祝福を受け取ることができていて、体に暖かさを感じ、自分の胎ももとに戻って来たことを感じた。
そして最後に「悪魔」を「神」のオブジェの後ろに置き、自も弱さを克服する力が与えられていることを信じることができた。
ゲシュタルト法では常に抽象的なものを明確にしようとしていて、今回のケースでは、「悪魔」と「神」の極性が取りあげられた。
彼女が必要としていたものは、今直面している問題をうまくとりあつかってもらうことであり、そうすることにより、彼女は人格の統合性を感じることができた。

2015年11月18日水曜日

Case #53 - 一体どっちに問題があるの?

トムはお酒を飲み過ぎることがよくあった。これはもう何年も続いていて、何回か止めようとしたが、止めてはすぐにまたはじまった。
アビーは彼の飲み癖が嫌だったので、トムにお酒をやめるよう何度も言っていた。ただ、トムは確かにやめようとしていたのだが、ある一定の期間は良くなるが、その後、何かの拍子で悪い癖がまた始まってしまうのである。
アビーはトムと良い恋人関係を築きたかった。彼女はトムと物事を共感したかったし、コミュニケーションをとりあい、お互い正直でありたかった。二人は長年付き合っていたので、彼女は今までの年数を無駄にしたくなかったのだ。トムに愚痴を言うのは効果的では無かったが、ただ、なすがままにするのも良く無かった。アビーはだんだんストレスがたまってきていた。トムは彼女が求めているような改善を見せなく、アビーは怒りがたまる一方で、もうお手上げ状態だった。
トムは紛れもないアルコール中毒だった。彼は自分でどのくらいお酒を飲むかコントロールがきかなかったし、止めようとしても6ヶ月くらいまでしか続かなく、すぐもとに戻ってしまうのだった。
アビーは自分が出来る事は何でもしているようだった。彼女は自分の立ち位置をはっきり持っており、自分とトムとの間に適切な境界線を作っていた。また、こうしてセラピーにも自分からすすんで来たりしていた。
心理学のフィールド(場)からの視点でいうと、「中毒」というものはある一定の人の「中」にあるものではなく、家族や恋人との関係の「中」に存在するものだ。この場合、アビーは自分ができることは全てしているように見えるが、通常は中毒というものは一人以上の人の原因により成り立っているものだ。アビーは中毒フリー、いわゆる「普通の」恋人関係を望んでいた。
アビーの父親は過剰にコントロールしたがる人で、侮辱的で、いじわるだった。彼女は親からの愛情を十分に受けることができず、誰かに耳を傾けてもらったりなどの必要性も満たされていなかった。そのため、誰かに見てもらいたくて、いつも誰かを助けたり、お手伝いをする「良い子」になった。
これはゲシュタルト心理学で成長、成熟における「創造的調整」と呼ばれているものだ。この「調節」はその時は効果的だったのかもしれないが、大人になるにつれ、彼女の首をしめていくだけだった。
彼女はこのような過去からの心境があったため、看護の勉強をし、他の人を助けたいと思ったのだそうだ。そして、今まさにそのようにトムも「助けよう」としていた。
アビーは心を探っていく中で、自分の人への好意は誰かにギフトをあげるような気持ちだということに気づいた。それは、他の人・男性に何かを「差し出す」ことにより、彼女は自分が役に立っていて、存在を求められていて、認められていて、必要だとされていると感じたからだ。
実際、トムとの恋人関係にこの心理が働いていた。彼はアビーを必要としており、彼女が怒って距離をおくと、トムはとても悲しくなった。彼女はトムが悲しい顔をしているのに耐えられなかったので、彼をなだめようとするのだ。
ここで一つ重要な気づきは、彼女の好意は人を操るために利用されているものである、ということだった。それは、彼女の心の奥底に「私があなたに何かを差し上げたら、あなたは私を必要とし、私のそばを離れないわ」という心理が働いていたからだ。
このことに気づくことは、アビーにとって重要なターニングポイントだった。アビーはトムの中毒だけでなく、自分の中で働いている「操り」も見出すことができた。それは、ゲシュタルト法で「proflexion」と呼ばれるもので、自分が何かをすることにより、当たり前のように相手にも何かを期待する、という心理だ。
これは「歪められた境界線」の例であり、何かを与えているように見えるが、実際はその裏に隠れた動機があり、本当は無条件の愛ではなく、条件付きの愛であるものだ。
彼女は今まで相手に何かを期待しながら与えていたことに気づいていなかったので、この「気づき」は非常な大きなものだった。これで、トムの中毒だけでなく、アビー自身にも問題があるということに気づいた。
ゲシュタルト法はクライアントが自分で「気づく」ように導いている。それは、今現在起こっていることだけでなく、日常の中で隠れて現れる行動など、複雑に形成されているクライアントのフィールド(過去、家族構成、人間関係)を探ることでもあるのだ。
このような心に潜んでいるものを明らかにすることにより、クライアントが過去どのような事があったかに関わらず、現在の自分の行動に「気づき」、ゲシュタルト的な言葉でいうと「自分の行動に責任をとる」ことができるのだ。そして、クライアントは自由を得るのだ。自分が人を操ろうとしている行動に気づくことはそれに対して何かをしよう、という思いを与える。しかし、相手が何かにはまっていたり中毒だったりすることしか目に入らなかったら、それに対する反発が出てくるだけだ。

2015年11月7日土曜日

Case #52 - ちゃらい女たち

マーティンは今までに何人か真剣に付き合っていた彼女がいた。まだ子供はいなかったが50歳になった今、ソウルメイトともいえるような女性とつきあっていた。
彼はいわゆる「パーティーガール」と呼ばれるお酒のあるパーティーが好きで、遊び回っている女性に魅力を感じる事を自分でも気づいていた。今の彼女に出会うまでは彼がどんなに努力しても長続きする関係を持つことができなかった。
彼は今幸せだったが、ひとつ気がかりなことは、今の恋人が飲みに行くことが好きだということだった。彼自身も飲み会などのパーティーは嫌いではなかったが、たまに早くパーティーを抜け出したいこともあった。
また飲み会などに行くことによって思った以上にお酒を飲んでしまうことがあった。
アルコールや人間関係の行動パターンを考えるとき、問題自体にフォーカスするよりも、もっと広い範囲で物事を見る必要がある。ゲシュタルト心理学ではこれをフィールドと呼んでいる。このフィールドを探って行く方法はいくつかあり、家族心理学(家族性発現)で用いられる方法だ。個人療法の中でも、範囲を広げて色々な要素を見ることが求められる時もある。
そこで私は彼の両親と祖父母について伺った。彼の両親はとても仲が良かった。
彼の父方の母親は、彼女の時代にしてはとても冒険好きな人で、良く旅行に出かけたりしたし、晩婚だった。彼女はまわりの人に人気のある女性だったが、母親としてはかまってくれない時もあったようだ。なので、彼の親子関係に対する思いはどうやら父方のほうから来ているようだった。マルチンはいままでこのような事を考えたこともなかったが、こうして見てみると自分がなぜ社交的だが一つの関係で長続きしない女性に魅力を感じるのかが分かってきた。
「過去」のことが分かった彼が次にするべきことは、「現在」へ移行することだった。私は彼の好きな「パーティーガール」を表す椅子を彼の前におき、彼にその女性にどのような感情があるか考えるように言った。それには魅力だけでなく、過去の女性関係の痛みなど、様々な感情が入り交じっていた。私は、彼がその「女性」の前に座った時、どのような心の動きがあるか聞いてみた。彼は自分の中で興奮と怒りを感じること、そして虚しさも感じる、と言った。私は彼の体の部分でどこにこの感情を感じるのかを聞いてみたところ、彼は自分の胸に息詰りを感じると言った。
また彼は今の恋人がお酒をたくさん飲み始める時にもパニックや恐れに似た、同じような気持ちを感じると言った。こうなった時、彼は大体彼女に小言を言うか、何も言う事ができず一人で怒りを溜め込むのだった。
私はこれを聞いて彼に「今の感情を持ったまま、椅子に座っている『彼女』に自分の思いを話してみてください」と言った。
これは彼には非常に難しいことで、彼はそれをしようとするととても不快な気持ちになると言った。
なので、私は彼に『彼女』と場所を代わり、今度はマルチンが椅子に座り、自分が彼女になりきって、『マルチン』に話す様に言った。椅子に座った彼は反抗的になり、人から何か言われるのを嫌い、「あなたが私のことを大切に思っているなら、私にどうこうしろと言わずに、自由にさせてくれるはずだわ」と言った。
実際、マルチンは彼女がこのようなことを言うのを耳にしてたので、はじめて聞いたことではなかった。
私は再度椅子に向かって話すように、彼に私の隣りに来るよう指示し、彼の中の反抗的な面について聞いてみた。ゲシュタルト療法では人の心の中から現われてくる対極性や極性(polarity)に注目しており、特に自分が否定している心の一部が恋人や結婚相手などパートナーの性格にあらわれることがある。
いつも反抗的なのは彼の恋人だったので、マルチン自身、このような考えをするのに慣れていなかった。
私は、「もしあなたが自由で、どんなことでもできるとしたら、どのような『反抗的』なことをしたいですか」と聞いた。
彼は職場の上司が独裁的で厳しくいつもそれに耐えていて、上司に言い返したりしていなかったと言った。
私は、彼の「上司」を今度は椅子に座らせ、上司に言い返す様に促した。彼はこうすることにより、肩の荷が軽くなり、気分も軽やかになった。
私たちは他のシナリオでもこれを何回か試し、毎回、彼は「反抗的」なことを相手に言い、それによって心の重荷が解消された。彼は今まで、いわゆる「いい子ちゃん」を演じていたのだ。
このセッションを通して、彼は自信を得ることができ、弱者の立場だった自分が強くなったと感じることができた。
これは全体的なセラピーの一部でしかないが、自分の心を相手に投影することにより、負のエネルギーが移動し、私たちはよりバランスの取れ生き生きとした人生を歩ことができる。それはまさしくゲシュタルト心理学の目的でもあるのだ。

2015年10月26日月曜日

Case #51 - 幽霊と向き合う

リアンは自分がいつもびくびくしていることを話した。彼女はゴキブリが怖かったし、ちょっとした音でもびっくりしてしまい、夜には窓からどろぼうが入ってきたり、おばけや「化けもの」がこわく、なかなか寝付けなかった。また、船に乗る時も何か化け物のようなものがいるのでは、と恐れていた。
彼女はちゃんとした大人だったが、この話は大分子供染みたものだった。そこで、わたしは彼女が子供のころ、このような恐れを引き起こす何かが起きたのでは、と尋ねてみた。
彼女はすぐに6歳の頃に起こった出来事を話してくれた。彼女のとても仲の良い男の子の友達がおぼれて死んでしまったのだった。彼が発見されたのは亡くなってから数時間後で、彼がリアンの家に連れてこられた時、男の子の両親は医者であるリアンの父親に息子を助けてほしいとお願いしたが、生き返らせることはできなかった。
その夜は嵐で彼女はとても怯えながら眠りについた。そして、その友達を自分が救うという使命を与えられていたが救うことができなかった、という悪夢をみた。彼女はその後、大人になっていっても彼のことをよく考えることがあり、まだ大きな悲しみを持っていた。この話を聞いて、私は彼女の恐れている「お化け」が何なのか、見えてきた。
そこで恐れを面と向かって直面しないといけないが、この恐怖を解決するためには必要なある「実験」を提案した。それは今の心の波の勢いと強烈な恐怖、そしてせっかくあるこの機会を用いて恐怖と面と向かって対決し、今この時に解決するということだった。
私は自分が彼女の隣りに立ち、一緒に空いている窓を面して、グループの参加者たちには彼女を支えるため彼女の後ろに立つ様お願いした。そして、彼女には子供の頃亡くなった友達の幽霊を今この部屋に呼んでもらう、というものだった。
彼女は言われた通りにしたが、葉っぱが揺れ動くようにふるえていた。私は彼女を自分に寄りかからせ、彼女に手を回し強く支えながら、グループの参加者もすぐ後ろで支えてくれているのを確認した。そして彼女に「幽霊」へ話しかけるよう促し、友達の幽霊に自分がどのような心境にあったか、彼が亡くなってどんなに辛かったか、どんなにか彼に会いたかったかを話す様伝えた。
彼女は私に言われた通りにしたが、しんどそうだった。「私はそっちの世界で、あなたと一緒にいたい」と彼女は言った。私が友達の幽霊がどのように答えたかを聞くと、彼はリアンにそうはして欲しく無い、と答えたと言った。彼女は自分のなかで死を望んでいて、友達と一緒にいたいという気持ちはあったが、幽霊からまだ生きていて欲しいということを聞くのは大切なことであった。そのため、私はもっと友達と話す様に促し、彼に彼女の本当の気持ちを全て話し、彼の答えに耳を傾ける様に言った。
恐怖と深い悲しみの中を通っている時、彼女は始終私の支えを必要としていた。私は彼女にお腹から足へとゆっくり深呼吸する様に言った。
クライアントが今体験していることを感じ取り、激しい感情に圧倒されてしまわないように、ゲシュタルト法では呼吸法を用い、自分の立ち位置をしっかり持つことをクライアントに教えている。子供の頃は特に、このような心理療法は難しいし、誰も教えてくれなかったので、以前は圧倒されてしまった出来事をこうして現在になって消化することができたのだ。
彼女は30年間ずっと恐怖を持って生きていて、いつも息が浅く、浅い呼吸をする度に今までの恐怖を思い出していたのでこのように深呼吸をするのは難しく、私は彼女に呼吸方法を教え、励ましてあげないといけなかった。
しばらくしてから、彼女はとても落ち着いた表情になり、幽霊を解放することができ、もとの自分にもどることができた。そして、自分の体と魂が一致しているのを感じ、今までの恐怖が全て過ぎ去ったのを感じることができた。

2015年10月18日日曜日

Case #50 - 物へ語りかけることと感情表現の励まし

マークは自分の生活の中でのいくつかの課題をあげたが、どれも彼を特に影響しているような強い印象のものはなかった。彼の職はいま過渡期で、以前は父のところで働いていたが、今はそれをやめたばかりだった。彼はいくつかのビジネスを持っていたが、どれもあまり良い稼ぎにはならなかった。マークは今年結婚3年目を迎え、子供が欲しかった。私は彼が物事をすらすらと語る様など、彼の話を一つ一つ聞きながら、それぞれ気づいたことや自分の思うことを話した。
彼は特に「問題」という問題は無いようだったので、私は彼の結婚生活に関して質問した。彼は妻との結婚に満足していて、幸せだと答えた。
大体の場合、これは良い心の状態を示すが、私は具体的にこの「幸せな結婚」がどのようなものであるかを知りたかった。ゲシュタルト法ではコンタクト(ものごとの繋がり)を探ろうとするため、いつも漠然としたものではなく、具体的なものを探っていくようにしている。マークはこの質問にすぐ答えられなかった。私が彼の感情や気持ちについて問うと、彼はまたもや具体的に話すことができなかった。なので、マークは具体的にものごとを表現し、向き合うことができていないために、自分の気持ちを正直に見つめることができていないのでは、と思った。
そこで私はある「実験」を提案した。それはグループの一人一人を見て回り、彼がそれぞれの人を見るときにどのように相手に対して感じるかを考える、というものだった。
「実験」をやってみて、彼は私にちゃんとそれぞれの人を見て自分がどのように感じたかを明確に伝えることができた。マークが人間関係の中で自分がどのような立ち位置にいるのかを理解するキャパシティーがあるのは明らかだったので、恐らく彼はただ誰かの励ましが必要だったのだ。私がそれを言うと、彼も同意した。
次は彼にグループの参加者に「あなたを見るとき、私は(こう)感じる」と具体的に感情表現をするように言った。これはとても簡単なことのように思えるが、彼は自分の気持ちを理解するのが苦手だったので、このように簡単にできる事からはじめるのは大事だった。私が彼に投げかけたこの「実験」は人々を見て、どのように感じるかということをもとにそれを直接その人に伝えるものだった。ゲシュタルト法ではいつも人との関係に結びつくように促して行く。
彼は何人かの人へ語りかけ、毎回はっきりと自分の思っていることを伝えることができた。先ほど言ったように、これを見る限り彼は自分の気持ちを表現することはできていて、ただまわりのサポートが必要なだけだった。
次に私はクッションを持って来て、それを彼の妻に見立て、彼に同じように「きみの中に(このような性質)を見るとき、ぼくは(このように)感じる」と語りかけるよう促した。
彼は毎回はっきりと「妻」に自分の気持ちを話すことができた。私はこれを見ながら彼を励まし、彼は確かに人へ自分の気持ちを伝えることができるのだ、ということを伝えた。私は、彼はただ、人からの反応を恐れずに練習できる環境が必要なのだと言い、彼もそれに同意した。次に、彼に自分の父親へも同じように語りかける様促した。
彼は誰かの励ましさえあればこのように自分の気持ちをはっきり伝えることができるのだ、と私は言い、またクッションに話しかける様促した。まずは妻へ話かけ、その次に父親へ、「あなたが(これを)するとき、ぼくは(こう)感じるので、(このように)あなたの助けを必要としている」と。
こうすることにより、彼は具体的に自分の気持ちを表現することができ、最後には気持ちがとても落ち着いたことを教えてくれた。
この実験は適応認知行動学の良い例であり、感情、人とのつながり、信頼性と励ましを全て適用しているものだ。これらはゲシュタルト法での重要な要素であり、このように誰かに物事を順位をおって教えて行くようなセッションはとても大切である。
必要に応じて、このような方法をゲシュタルト心理学で用いていくことは可能である。大切なのは、ある一定の方法ではなく、クライアントがその時々にどのようなプロレスを必要としているかを見極め、用いることだ。

2015年10月13日火曜日

Case #49 - 硬くなった人形と柔らかい手

アナベルは深い悲しみのうちにいた。彼女は木でできた硬い腕のある人形を持って来ていた。「これは私なの」そう言い、彼女は「私の腕はゾンビのように硬直していて、私の心は沈んでいるの」と付け加えた。
彼女は子供のころ、両親がいつもひどい喧嘩をしていて、そのことにより彼女の心は硬くなってしまい、心に恐れが残ってしまったことをうちあけた。大人になると自分がきつい人間であると感じ、もっと女性らしくやわらかい人間になりたいと思ったが、この人形のように「硬い」ままだった。
私が彼女の言葉に深く耳を傾けていくうちに、だんだん彼女の心情が理解できてきた。彼女は確かに、深い悲しみの中にいたのだ。
同時に私の中でおかしな、それも少し冷笑的とも言える考えがうかんだ。それはゾンビがアニメか何かで出てくる様に面白おかしく歩き回っているものだった。
なので私は彼女との深い心のつながりがあること、そして彼女のことをとても気にかけていることを話し、その後に自分の脳裏にうかんだおかしなゾンビのことを話した。私は彼女に嫌な思いをさせたくなかったが、このこともシェアしておきたかった。
彼女は快く耳を傾けてくれた。私は二人でゾンビになってみようか、と提案した。そこで、私たちは立って、二人で並びながら一緒にゾンビのように歩き回った。グループの皆に向かって歩きはじめたら、多くの人はこのおかしな様に笑っていたが、ある人達は怖がっていたので、その人達は回避してあるいた。それでもこの体験は皆にとっておかしく愉快なものであった。
アナベルがすわり、私も彼女を面して向かい側にすわり、彼女がこの体験を通してどう感じたかを観察してみた。
この体験は彼女の心をやわらかくし、彼女の心を開いてくれたようだった。彼女は自分の人形の腕を触りながらどんなにかそれが硬いかを言っていた。。。でも、腕をよくなでてあげたらそれが柔らかくなっていくかもしれない、ということも。
そこで私は彼女からヒントを得、彼女の腕を手にとり、柔らかくなでてあげた。彼女は小さい子供が誰かにすがるように、私の腕を両手でつかみとった。彼女がこの体験をどう感じているか見たところ、彼女がだんだんとおだやかになっていくのが目に見えた。私は彼女の腕をこすり続けながら、自分の心をやわらげ、おだやかになることについて話した。彼女の手からは強いエネルギーを感じ取った。彼女は自分の腕がだいぶやわらいだ、と言ったので、今度は私が手のひらを上にして両手をひざにおき、彼女にわたしの手をなでるように言った。彼女が私の手を何度もこすっている際に、私は彼女の手から強いエネルギーを感じ取ることを伝えた。彼女は自分の心と気持ちに心から向き合うことができ、その過程をあゆんでいる最中もどのような心の変化が起きたかを教えてくれた。
「あなたの手は私の両親をそれぞれ示しているの。離れているけど、二人とも存在している」と彼女はいった。彼女はそれぞれの手に愛をもって触れ、また悲しみのある目でみつめた。そして人形をとり、人形の顔をわたしの指一本一本に触れさせた。また人形の両腕をとり、片方は私の左手に、もう片方は私の右手につけた。
彼女は「私の両親はそれぞれ別々に生きているけど、私はどちらとも繋がっている事ができる」と言った。
これは彼女が大きな変化を遂げた瞬間だった。彼女の悲しみは意気消沈して行き詰まったものから、心が開き、なだらかなものへと変わっていった。彼女の硬かった腕は今はリラックスしていて、彼女の体の様々な部分は息をし、今現在に存在していて、外の世界とつながっていた。
これは彼女にも、私にとっても、とても重要な体験であり、この体験をしてから彼女は深い平安と心のなかの一致を感じることができた。

2015年10月4日日曜日

Case #48 - 「魔女」とお金と病

ソンリはここ1年ずっと健康を害していた。何回か手術をしていたが、身体的な治療はあまり効かなく、一旦は良くなったがまた症状が悪化してしまった。そのため、心理学的なものでは無いかと思い、様々な精神療法を受けてみた。彼女は色々な精神療法を既に受けていたので、私はそれらをもう一度繰り返すことのないよう注意し、彼女がすでにどのような精神療法を受けていたか尋ねた。一つの問題に対し、色々な療法を試みるのはよくないことで、このような問題に対しては専門家による慎重な判断が必要となってくる。
医者に行く時にセカンドオピニオン(他の医者の意見)をもらうのはいいかもしれないが、4−5人の医者をはしごしても、訳が分からなくなるだけで逆に混乱してしまう。一つの問題に対し一人のセラピストに診てもらうことで、その問題を深く取り扱うことができるが、色々なセラピストに行き「よりよい買い物」をしようとするのは逆効果になってしまうことが多い。そのため、私はソンリの問題を即座に取り扱おうとはしなかった。
私はまずどのように一年前に症状が出て来たのかを尋ねた。彼女は、中国で故人を追悼するために焼かれている「紙幣」を5年前になくなった父を憶えるために購入していたと話してくれた。
彼女がその紙幣を買いに行ったある日、「魔女」(彼女がその女性を表現するため使っていた言葉)が彼女に話かけ、「あまり買いすぎると病気になるわよ」と注意したと言った。そのため彼女はすぐにその紙幣を返品しようとしたが、店は返品を受け付けてくれなかった。その事件が起きてすぐに彼女は病気にかかった。
私はソンリの父親との関係がどのようなものだったかを尋ねた。彼女は父とはとても仲良く、父は自分のことを大切に育ててくれ、今でも毎日父親のことを考え、自分の息子を見たりする時など、生活の様々な面で父のことを思い出す、と言った。
これを聞く限り5年も経っているのにこんなにも父親にフォーカスをおいているのは何か心の中で解決していないことを意味するのでは、と思ったので彼女にどれほどの頻度で父のことを考えているのかを聞いてみた。
彼女はその質問にはっきりとした答えを出すことが出来ず、父に対して良い感情があるということ以外は、父のことを考えている時どう感じるかも言うことができなかった。
彼女の父に対しての感情はこれからのセッションで探って行くことができるかもしれないが、今はその問題を無理矢理こじ開けようとはせず、彼女が今感じていることを受け止めることが大切だった。このようにしてゲシュタルト法では「抵抗」しているものを無理矢理探っていくことはしないのです。
そのため私はしばらくの間彼女が言ったことを頭の中で反芻していた。
私は「紙幣」と「魔女」と(少しばかり)執拗的な父への想いなど、既に彼女がもっているものを使っていきたかった。
そこで私は今のゲシュタルト法に基づく実験をしてもらうため、彼女に一つの宿題を提案した。
彼女に1枚だけ紙幣を購入してもらうようお願いした。コンピューターには父親の写真が保存されていると言っていたので、毎日同じ時間にその紙幣からほんの少しばかり切り取り、紙幣を焼くときにコンピューターの父親の写真を出して「わたしを祝福してください」とお願いしてから、画像をとじるよう、提示した。
これはセラピーで「症状を取り扱う」と呼ばれており、ゲシュタルト法では「変容の逆説的な理論」と呼ばれるものだ。こうすることにより、今あるものとより同一になることができる。
しかし彼女はこれだけでは足りなかった。それは彼女がこの問題に対しせわしなく解決法を求めていて、あの魔女が紙幣を例えに言っていた「あまり価値のあるものを求めどん欲になるんじゃないよ」と言っていたことをそのまま示していた。
私は彼女が早く解決策を見つけたい、と感じていることを理解していたが、また次回のセッションに取り扱おうと伝えた。
彼女は病気のため有給をとっていたので、いつもどのように一日を過ごしているのかを聞いた。彼女は1日にある8時間ほどの時間で料理をしたり、休んだり、散歩に行ったりしていると行った。
彼女に友人関係での問題はあるかと聞いたところ、それは無い、と彼女は答えた。
私は彼女に父の名前で何かボランティア団体を立ち上げることを提案した。
こうすることにより父の象徴が「病、死、分離」というものから「命」と「結合」へと変わっていき、一日の中で彼女がポジティブに考え、「何かのために」生きて行く理由を与えてくれる。










2015年9月19日土曜日

Case #47 - 「終わり」は新しい始まり

私がこの夫婦に出会った時には、すでにしばらくの間夫婦の仲が悪かったことを知った。
ロンダは開口一番に「私は両親が離婚していたから、自分の家庭には絶対そんなことは無いよう心に決めていた」と言った。彼女は非常に悩んでいる様子で、夫のブライアンが肩に腕をまわそうとすると彼から離れた。
私は二人が向き合って話せるように、彼にロンダの向かい側に座る様お願いした。
その次にロンダの口から出た言葉は「もう終わりよ。もうこれ以上夫婦としてやっていけないわ。」というものだった。
ブライアンはその言葉を聞いてショックを受けた。彼は先程の言葉を今までに何回も聞いていて、ここ数ヶ月変わろうと努力をしていることをロンダに言った。彼は自分がどのように変わってきているかを話し始めたので、私は彼を止めた。ゲシュタルト法では「説明」は「今あるもの」から逃れる方法であると見なされているからだ。なので私はブライアンに、自分が今どのように感じているかをロンダに伝える様促した。私からの励ましを受けて、彼はやっと自分の気持ちを表に出すことができた。ブライアンは自分が今パニック状態に陥っていて、見放されていると感じていることを言い、更には泣き始めてしまった。
ロンダはしばらく座って聞いていたが、無反応だった。私が聞くと彼女は自分が無感情であると打ち明けてくれた。彼女は感情的に圧倒されてしまい、物事に対して「感じる」ことをやめてしまったのだ。クライアントがこのような状況にある時、必要以上のことを求めないよう気をつけなければいけない。
なので、私はブライアンともっと話すことにした。私は、今ロンダは彼と話し合う心の状態には無いことを説明し、それ以上ロンダの心をこじあけようとするのは無意味だということを話した。私はブライアンの感情を受け入れ、彼が自分の心のうちを話せる様励ました。私は彼の感情を受け止め、今彼がいる状況がどんなにか辛いものであるかを共感し、ブライアンが一番必要としているときに奥さんのロンダが心を閉じてしまったことはどんなにか辛いことであろうか、ということを話した。
するとロンダは彼を見て、涙目ながら言った。「あなたのお母さんにも前の奥さんにもこのようなことが起きて、私は絶対にあなたに辛い思いをさせたくないと思ったのに。」
それを聞くとブライアンは号泣し、無口になってしまった。私は彼に、「ほらごらん。ロンダはやっと感情を表すことができてあなたと話せる状態になってきたよ」と言い、今存在し始めた「こころのつながり」をブライアンに教えようとしたが、今は彼にそれを受けとめる余裕は無かった。
ブライアンは自分に罪悪感があること、自分が失敗してしまったということ、そしてこれからもっと頑張りたいということをロンダに言い始めた。しかし、今はロンダにはそれを受けとめる余裕もなかったので、私はブライアンを止めた。
そして私はロンダに、今ブライアンが言ったことを受け止めることができるかと尋ねた。彼女は無表情だったので、私は「今はそれらのことを受け止める余裕は無いわ」と夫に言うよう促した。これはロンダの今の心の状態を考えると正直な言葉だった。
ブライアンはロンダの言葉を聞いてとても辛そうだった。私はブライアンがロンダにそのことを伝えることができるよう、手助けをした。するとロンダは夫の目には怒りと憤りと悲しみがあると言ったので、わたしは彼にそれらの感情ひとつひとつが彼にとってどのようなものかを妻に伝える様言った。
彼女はブライアンの話に耳を傾けたが途中で「これ以上続けないで。あなたがこういう話をするのはとても辛いのが分かっているから、聞いていて自分が悪者のように感じるわ」と言った。
それを聞くとブライアンは心を閉ざしてしまい、完全に殻に閉じこもってしまった。私は彼に今ロンダの状況を受け止めることはできないと言う様に促したが、それさえもブライアンには難しそうだった。なので私はロンダに、私に話しをするように言った。これはカップルセラピーの手段の一つで、もし一人が話しをできる状態にいない場合、その人はただ見て聞いているだけで良いようにカウンセラーがもう一人の話を聞くということだ。ロンダは夫が今の状況(離婚したいということ)を受け入れることができるまで、しばらく待とうと思う、と言った。ブライアンは彼女を愛していて、そう簡単には諦めないと思ったので、彼は絶対にそれは受け入れないだろう、と私は言った。これを聞いてロンダは少しショックを受けたようだった。
なので私はロンダの気持ちや想いをもっと探ることにした。そうしているうちに、ブライアンも話せる状態になったので、ロンダは彼に対してとても申し訳なく思っており、罪悪感があることを言った。ブライアンとロンダは一緒に泣き、ブライアンは彼女に近づこうとしたが、ロンダはそれを拒否し、距離を置いたままにするよう、言った。このことに関して私が探ると、ロンダはもう夫への愛が無いということを言った。しかし私は、それは「愛」というものを感情として捕らえてしまう間違った考えから来ていると言い、変わりに今の想いを言葉にして伝えるよう言った。するとロンダは「私は自分の心を閉ざしてしまったわ」と言った。
ロンダの言葉は意思と決断力を示し、これからの行動や決意へつながっていくものだったが、今はそれらを取り扱う時ではなかった。ただ、この言葉を受け止めることが大切だった。
そこで私はブライアンに今のロンダの言葉を確かに聞いたことを彼女に伝え、また彼女に自分の気持ちを伝える様に言った。彼がそうすると二人とも泣き出した。
すると、急に何かが変わり、絶対無理だと思われる状況で、二人は何とかしてお互い共感できるものを見つけたのだ。二人ともこの情況の中で圧倒されてしまっていたが、私の支えもあり、この失意と悲しみの中で関係を保ち続けることができたのだ。
最終的な結果は私には分からないが、ゲシュタルトでのフォーカスはこのように(二人には今までなかった)人間関係の基盤となる共感点を見つけることだ。


2015年9月2日水曜日

Case #46 - ウジ虫の悪夢

フェリシティは最近見る悪夢について話した。ゲシュタルト法では通常、夢の開示はしないが、大体の悪夢は自分の中の攻撃性を示している。夢というものは、それを見ている人の性格と関連していると考えると、悪夢というものは自分の中の攻撃性を示していることになる
フェリシティは、それぞれ場面は違ったが、何度も同じような悪夢を繰り返し見ていた。大体はこういう夢だった。
彼女は地下室にいて蛆(うじ)を生育していた。蛆は何百匹、何千匹といた。そして、次のシーンでは彼女は蛆を吐いていた。彼女の体は蛆でいっぱいで、ただ一匹を残し全て吐いていた。
さて、この夢を聞く限り、一日中過ごせるほど様々な解釈があるであろう。一番簡単な解釈だと、地下室は心の底にあるものを示していて、蛆はその人の中にある何か「腐った」ものを示している、と言えるであろう。
しかし、ゲシュタルト法ではここまで深く探らない。ただ、その人の体験をそのまま受け取り、その体験がその人にとってどのような意味を示しているかを分かることができるよう、探っていくのである。
私はフェリシティにそれぞれのシーンで出てくる蛆に対してどう感じるかを話すよう促した。彼女は蛆である自分は太っていて、なまけもので、何も出来ない自分を示していると言った。
そして、彼女の体の中に残っていた一匹の蛆は外に出てきたいのだ、ということも言った。
次に私たちは蛆になったつもりで、歩き回った。
私は、「みんなそれぞれ自分の心の中に、他の人に見せたく無い『蛆』がいるのだよ」と彼女に伝えた。
私は具体的な例を挙げて、自分の中にいる蛆について彼女に話した。
このように取り扱いが非常に難しい問題は、セラピストがリードしてあげることが大切だ。
彼女は初めは自分の中にそのような「蛆」が住んでいることを認めたくなかった。彼女はあひる口をして、しょげた顔をしてみた。彼女の表情はまるで、自分は何も隠していない純粋な少女よ、という表情だったので、私はその表情をそっくり返してみせた。そして、「それは心に『蛆』がいる人が見せる表情では無いですよ」と言った。私がこう言ったことにより、彼女は自分が心の問題を認めていないことを自覚しはじめ、自分に正直になることの大切さを感じはじめた。彼女は自分の「蛆」についていくつか例をあげたので、私はそれらが彼女にとってどれほど辛いものであるか、共感を示した。しかし彼女はまた先ほどの「私は何も悪いことはしてません」という顔をしたので、私は今の表情は、彼女がさきほど打ち明けてくれたことを卑下している、と言った。
こうすることにより、私は彼女が自分の問題と直面することを促すことができた。ゲシュタルト法は、いつも「今、私は誰なのか」という『現在』にフォーカスしている。
私はグループの中にいる他の人にも自分の中の「蛆」について話してもらう様お願いしたので、フェリシティは心の闇を持っているのは自分だけでは無いということを理解することができた。また、こうすることにより、皆が自分の心の奥底を打ち明け、お互いの仲が深まり、楽しくセラピーをすることができた。



2015年8月10日月曜日

Case #45 - 不幸な人生

ベティーは自分の中にある不安について話をしたがった。しかし自分でもその不安がどこからきているのか、あるいは何に関係しているのかがわからなかった。
私は彼女の「不安」を探る前に、彼女のことをもっと知りたかった。そこで、彼女の子供や、結婚、仕事について質問をした。彼女は20年ずっと働いていた仕事を最近やめたため、今は彼女にとって過渡期であった。彼女は安定した家庭を築いており、娘は美人で有能であり、夫は彼女のことを愛していた。
しかし、彼女は幸せそうではなかった。私が彼女に、「今幸せですか?」と聞くと、彼女は「いいえ」と答えた。まわりの人は、彼女は理想の家庭を築いており、ばら色の人生を歩んでいると思っていた。私は彼女に何が不満なのか、と問うと彼女は自分が愛しているよりも夫が自分のことを愛してくれている、と答えた。「夫は良い人だけど、私たちはお見合い結婚で彼は私のタイプでは無いの」と言った。彼女のタイプがどういう男性かと聞くと、意思が強く、人生で明確なビジョンを描いており、センスがある人と答えた。夫はそれのどれにも当てはまらない、ということも。
私はこれを聞いてあっけにとられ、しばらく今聞いたことをプロセスする時間が必要だった。彼女は素晴らしい人生を歩んでいるのに、何かが欠けていた。私がもう一度彼女の目を見ると、彼女の目は彼女の不幸を語っていた。私が彼女に年齢を聞くと、彼女は44、と答えた。彼女に「これからの44年、あなたはだんなさんとずっと一緒にいれますか」と聞くと、「はい」と彼女は答えた。なので、これだけははっきりすることができた。彼女は、夫のそばにいるという決断を既に心の中で決めていたのだ。
しかしそこには基礎的な人間関係の繋がりが欠けており、情熱やつながり、一体感、というものが欠けていた。彼女はうわべだけの幸せを選んだ故、どこか心の奥底で満たされないものがあった。
ゲシュタルト法では、「選択肢」というものにフォーカスをおいており、すでにクライアントが持っている選択肢を探る様にしている。人生では様々な出来事が起きるが、その中でも私たちは色々な選択肢がある。私たちが「捕らわれている」と感じるのは、外面的な要素からくるものでは無く、私たちが自分に選択権があるということを忘れてしまうからだ。
また、「選択」というものには「結果」もつきものであるが、良い人生というのは物事を他人のせいにしたり、現実逃避するのではなく、自分が選んだことに対し責任を持つものである。
ベティが直面している状況はまさにこの通りだった。彼女の目の前にある選択肢ははっきりと見えており、またそれによる結果も見えていた。彼女は悲劇のヒロインのように嘆いていたが、このまま不幸なままでいたくなければ、何かを変えなければいけなかった。彼女は、今の現状を維持しつつ、自分で物事を選択する権利をも持っていた。私はしばらくの間、彼女の嘆きに共鳴し、彼女の現状を受け入れる時を持った。これは心のつながりの空間を築く上でとても大事なものだった。それは、変化を求めず、課題も与えず、ただそこにいて、その人の今の現状を理解し受け入れるものだった。この方法は「わたしとあなた」(I-Thou)とも呼ぶことができる。
少し経ってから、私は未来を予測し、仮定を生み出す質問をした。はじめから、この「仮定」のプロセスをふんでしまうと、回答の無い問いばかりになってしまう。しかし、少しばかり今の心の状態の中にとどまることで、これからの選択肢や他の見方を見つけることができる。
「ご主人はあなたが私に教えてくれたような心の状態をご存知ですか」と私が聞くと、主人には言っていない、と彼女は答えた。なので、私は自分の経験から相手が自分の嘆きに関し心を開いてくれた時のことを話した。ベティの主人は彼女を愛していたので、恐らくこの会話は何かを変えることができるだろう、と思った。わたしは彼が彼女の「タイプ」になることは不可能だが、もし彼が本当に望んでいるのなら、ベティの理想の男性に近づくため努力をしてくれるだろう、と言った。そのためにはまず彼女から、自分自身の気持ちや必要を伝えることが大切である。ここでチャレンジングなのは、それを良い結果をまねく方法で伝えることだ。
私はベティにまず、ご主人に彼女の目を10分間、会話無しでみつめてもらい、彼女の嘆きを伝えるように言った。そうしてから、彼女はご主人にどのように変わって欲しいか、少しずつ伝えるのだ。
しかし、これは彼女の不幸を変えてくれる解決策では無かった。実際、彼女は必要としているものが満たされない状態にいたので、私はベティに自分の創造性を活かすことをしたり、スピリチュアルなことをしてみるよう言った。こうすることで、彼女は外面からでなく、心の内から幸福を見出すことができるだろうからだ。
このような提案はゲシュタルト法では推薦されていないが、人がある特定の場所で心の時空が止まっている時、それを動かすためには心に喜びを与えるものをするべきだからだ。そして、その喜びを見つけることによって実際に心が解放されていくからである。



2015年8月4日火曜日

Case #44 - 「繭」を通しての再生

ニコールは明らかに悩んでいた。彼女はこの間見た夢のことを私に話してくれた。夢で、彼女は自分が繭の中にいるようで、外に出たいけど、外に出ることによって自分は変態するのか、それとも死んでしまうのか、どちらか分からなくて怖かった、という夢だった。
私は彼女の使った「繭」というイメージをセラピーに用いることにした。セラピーでは必ずしも、クライアントのバックグラウンドを全部把握していなくても、クライアントが話している比喩を用いて、それを土台に話をすすめていくこともできる。この場合、明らかに「繭」という比喩では変化を望んでいるが、変化を恐れている、というのを見ることができた。ゲシュタルト法では、これを「安全脱出法」と呼んでいる。それは、クライアントが望んでいる自分へ変わって行くことを安全な環境で促すものだからだ。
そこで、私はグループの中から6人選び、「繭」として彼女を囲む様お願いした。ニコールはすぐに、前よりも激しく泣き出し、地面にしゃがみこんでしまった。私は周りの人々に彼女を囲んで座る様、お願いした。私は彼女に、自分の世界に引っ込んでしまわずに、まわりの人々とアイコンタクトをとるよう伝えた。そうしないと、自分の世界へ入ってしまい、外の世界にいる人々と人間関係を持つ事をしなくなってしまうからだ。そうなった場合、その人の感情はただ自分の心の中でぐるぐるとまわり、実際には進歩しないからだ。
彼女が言われた通りにすると、一人の女性を見て「あなたのことは嫌いよ」と言った。しかし、これはその女性に向けて言われたわけではなくて、その女性がニコールの母親を思い出させるような人だったからだ。なので、私はニコールにその女性に話し、言いたいことを全部言うよう伝えた。
「どうして私を捨てたの」と彼女は聞いた。ゲシュタルト法では「なぜ」の質問系はあまりに役に立たないと見なされているので、私はそれを質問ではない文章に変えて言う様促した。
すると、彼女の心の痛みが引き出されてきて、子供の頃、母親に捨てられたことを語り始めた。はじめに供述したように、私は細かいことを色々聞かなくても、彼女の心を解放することができた。彼女はその時、変化のプロセスを歩んでおり、それで十分彼女は解放されることが出来た。
私は、彼女がこの心の変化に直面し、人々とアイコンタクトを取り続け、深呼吸をするために彼女を支えていた。彼女も、彼女の「母親」役の女性も、とても感情的になっていた。
数人の人で作られたサポートサークルは、彼女が自分の心に押しつぶされている状態にあって、彼女を優しく包み込んでくれる存在として、大切だった。
とうとう彼女は疲れて、横になりたいと言った。
私はニコールを「母親」役の女性の膝の上で寝かせ、しばらく休ませた。
ニコールが10分後に起きると、彼女は生き返った感じがし、以前はむなしさと痛みがあった自分の心に繋がりを感じることができ、暖かさも感じることができた。

2015年7月23日木曜日

Case #43 - 毒性のある「母の声」

テレサは自分の会社を立ち上げるため安定した仕事を辞めました。それは、自分へのチャレンジのためだと彼女はいいました。
しかし、彼女は何かが失敗すると分かっている時以外は、強い不安感をいつも抱いていました。彼女は成功に近づくにもかかわらず、それが確実に確保されるま瞬間まではいつも不安を抱いていました。そして、その不安は彼女の個人的な生活の中でも反映されました。
それがどこからきたか、またどうすればいいか彼女は全く分からなかった。
私はそれが物事をコントロールしないといけないと彼女が無意識に思っているからだと思いました。私が彼女の人間関係を探って行くうちに、母親が彼女をコントロールしているということが分かりました。
私たちがこのことを話している途中でテレサは頭痛を感じはじめました。それは、彼女の母親が「彼女の頭の中」に存在しているからだと、私は察しました。なので私はクッションを彼女の母親とさせ、彼女が母親に話しかけるよう促しました。このように心のうちにあるものを外に出す、という方法は典型的なゲシュタルト法です。私は彼女が母親に何かをいい、すぐに場所を交換し「母親になり」、返事をするようにいいました。
私は「彼女の母親」が言っていることを聞き、かなりショックをうけた。「母親」はテレサに対して酷い事をいい、テレサは彼女の美しい姉妹に比べて醜い、や、テレサが悪い人間である、など言い、更には彼女(母親)は本当は子供は欲しくなくてただの義務で母親をしているし、もし子供がいたら男の子が欲しかったのだ、とまで言った。
これは、ただの「悪い母親」というだけではなく「有毒な母親」というタイトルに価するものだった。このような言葉は人との対話に良いものを生み出すことのできないものだった。
私は「母親」にテレサへ話すのをやめるように言い、彼女(母親)を「インタビュー」して、彼女(母親)のことをもっと良く理解しようとつとめた。
わたしがそうするにつれ、「母親」はとても興味深い答えをした。彼女は、「有毒な母」というレッテルの通りのことをいいはじめた。「母親」はテレサが重荷であり、彼女は自分の子供達によって自分が良く見られることにしか興味がないとまで言った。テレサは今経済的に成功しており、それは彼女を良い母親として世間に見られる様にしてくれたため、今はテレサのことをそれほど嫌がってはいない、ということを言った。
みなさんは、これはすべてただテレサの投影である、と言うかもしれません。しかし「母親」がこの会話で話したことは彼女が実際にテレサへ言った言葉なのです。
ポイントは、母親を「悪者」にしたてあげることではありません。もちろん、母も自分なりの困難があったことでしょう。しかし、自分の子供をここまで見下すことは毒性があり、それによってテレサは自分への自信をなくし、このような不安感が生まれるのでした。
そこで、私はテレサに今度はしっかりとした境界線を引き、母親に話しかけるよう促しました。彼女ははじめに「...しないでください。」といいはじめたが、私は、そのような表現はまだ母親に決定権を委ねているため、もう一度言い直すように言った。
わたしは、彼女に「私は...を受け入れることはしません」という言い方をし、ゲシュタルト法で重要である、明確な境界線を引くように言った。
このような表現を考える手助けを得、何回か繰り返すことは彼女にとってとても重要だった。
セッションの終わりでは彼女は心が安定し、自分の「頭の中の母親の声」により自分の自信が奪われるのを制御することができるようになった。
これは典型的なゲシュタルト法を用いたもので、どこかでとまっている心の会話を外に持ち出し、それを動かすサポートをするというものです。






2015年7月18日土曜日

Case #42 - 安全を感じること

ヤスミンは最近離婚していた。彼女はもっと成熟し、親から自立したいと話していた。彼女の目には彼女の心のうちを語っているようで、感情であふれていた。私はそのことと、他に彼女の服装ーカラフルなショールや首にかけたビーズなどー彼女について観察できることを語った。
彼女は「あなたといると安心します」と言った。私は「それは投影方法というもので、ある意味、私は『安全』を示しているが、いつもあなたと一緒にいるわけではないのだよ」と答えた。彼女は自分の父親のことを思い出したようで、これを聞いてつらそうにしていた。
彼女は私と会うことは彼女にとって必要なことであり、会ってくれてありがとう、と言ってくれた。彼女は自分が親からは「良い女の子」であるという、条件付きの愛でしか愛してもらえないということを言い、親からは一人の人間としては見てもらえないということを話してくれた。私は彼女の話を聞きながら、親からの承認、受け入れ、ケアを必要としている彼女の子供としての自己と、彼女の大人の自己ー境界線を引き、彼女自身のなりたい人となる、そのような自分ーを見ることができた。
これら両方の自己を誰かに見てもらうということは彼女にとってはとても嬉しいことだった。この瞬間、私たちはお互いにフォーカスしていた。私は今自分が心を開いていて彼女を受け入れることができ、彼女が誰かに手をとってもらい、サポートを受けて、誰かにかまってもらうと同時に、彼女が自分の人生を変えていく、その両方をできるということを伝えた。
彼女は多くのレベルで共鳴してくれました。私は彼女に大人として話し、私たちの間にある境界線と私たちの間にあるつながりを伝えた後、彼女に子供としての自分になり、私から必要としているものを言うよう促した。
彼女は今までずっと父親から、自分は大切な存在だと言ってもらいたかった、と答えた。私は自分自身大人になった娘がいたので、彼女のために「父親モード」で話すことを快く引き受けた。そして、私は彼女の「父親」として、彼女がどれだけ私にとって大切かを話した。
それに対し彼女は「どんなことがあっても私のことを愛している」と言って欲しいと言った。そこで私はそのことを彼女にいい、また彼女がしたことに賛成していなかったり、彼女の正確の好きではない部分があったとしても、家族としての愛に根ざしているということを伝えた。
私は彼女の本当の父親ではなかったが、彼女が必要としていることばを伝えることができ、彼女には自分の父から聞くのと同じくらいのインパクトがあった。
それは、セラピーでしっかりとした人間関係を結ぶことによりうまれることであり、人々をこのようにして変えることができるのである。
彼女はセッションのあと、自分に一体感を感じ、自分の大人と子供の自己を一人の人として結合することができた。

2015年7月9日木曜日

Case #41 -

フランシスはとても耳障りな咳払いをしていました。彼女と会った時、私もその咳払いが気になったので、それを彼女に伝えると、「この咳をする度に人に嫌な目で見られるんです」と彼女は言った。わたしは、「うん、その咳は少し気になるね」と彼女に答えた。
そこで、わたしたちは「妨害」というものを探求することにしました。私は、人を「邪魔する」良い方法もあるということを説明しました。例えばコメディアンはその例の一つです。そして革命家も。そしてグループ内の現状を乱す人々---彼らもまた、必要とされています。私は「和を乱す」いくつかの例を挙げることによって、彼女に人を「妨害する」ということに対し他の選択肢があるということを伝えたかったのです。
私は、グループ内の何人かを「邪魔する」ように彼女を促しました。彼女はふざけて一人の人のほっぺたをつまみ、他の人の足の上に横たわったりしました。
これらはあまり考えずにできるちょっとした楽しい行動だったが、彼女はすぐに人を「邪魔する」他の方法があるということを理解することができた。
私は彼女の現在の状況を知るために、家族の中で誰が嫌な人(邪魔する人)であるかを尋ねた。彼女はちょうど最近、母親が浮気していることが判明したと述べました。更に彼女の話を聞いていくうちに、彼女の父親は既に何年も浮気をしていたことを知った。
これは明らかに彼女を不安定にさせていたが、私は彼女の両親が何をしているかにあまりつけ込むつもりはなかった。彼女は、自分が家を出たから、母親が浮気をはじめたのだと言い、自分を責めていた。私は「あなたの母親の行動にあなたが責任感を感じる必要は無いんですよ」と彼女に言った。
私は彼女にフォーカスを戻したかったので「今、あなたは強烈な視線で私を見ているね。私は、ちゃんとあなたの話を聞いているから大丈夫だよ」と言った。彼女は子供の頃、何かがかけていたと述べた。彼女の両親は自分達の問題や争いごとで忙しく、彼女はあまり両親にかまってもらうことができなかったと。また、あったとしてもそれは悲しくも反応的な態度だった。彼女は両親に批判されるよりも彼らの愛情が欲しかったことを話してくれました。そこで、私は子供にとって、全く注目されないよりも負の注目(批判的)があったほうが良い、ということを述べた。それは、彼女が子供の頃経験した事に関わらず、今の自分が人に注目してもらうためにできることに対して、様々な選択肢があるというのを理解してほしかったからだ。
そして、今、私と一緒にいるグループの人達は彼女に注目を注いでいるということを見て欲しい、と彼女に言った。しかし彼女はグループの小さな変化に気づき、数人は気を取られていることを指摘しました。私は、彼女が大人数の中でも、人々がどこに注意を払っているのかに気づくことができるということを察しました。
そこで私は「分かった。でも今、私は本当にあなたにフォーカスしているので、それを感じてほしい」と言った。わたしたちはしばらくそこに座っていた。通常は、クリエイティブな心理療法、洞察、様々気づきがあるのだが、この時は、私は非常に平坦なものを感じた。それは何も無い平らな野原のようだった。私がそのことを彼女に伝えると、彼女は「そう、夫や他の人からもそう言われる」といい、彼女もまた、平坦な感じがする、と言いました。
なので私は今この瞬間、彼女と共有している空間があることを言いました。そのような親密性と結合性の瞬間は深い感情が入っているものなのです。しかし、今わたしたちが共有していた空間は何も無かったのです。私は自分のクリエイティブな部分を全て失ったかのようで、そのようなことに慣れていないと彼女に伝えると、彼女は「クリエイティブ」という言葉が好きだったようで、反応した。
彼女は「あなたの和を乱し、大胆な何かをしたい」と言ったので、私は「どうぞ」と言いました。そこで彼女は私の頬にキスをしました。私は「ああ、何もない風景画に色を塗ってくれたね!」と言いました。これは良い意味のコンタクト(接触)で、深い共有感のある瞬間でした。それによって彼女に大きな変化が起こり、彼女の中の何かが解放されました。
これは「注目」と「邪魔するもの」の両方の要素を用いて行った非線形ダイナミクスです。ゲシュタルト法では、必ずしも直線的で目的達成型のものでは無く、川のように流れに沿って、クライアントの現象と合わせ、自分の心の動きも感じ取っていくことが大事です。このようにすることにより、身体的認知(意識的な洞察)、いわゆる統合性を生み出すことができるのです。

2015年6月22日月曜日

Case #42 - 安全を感じること

ヤスミンは最近離婚していた。彼女はもっと成熟し、親から自立したいと話していた。彼女の目には彼女の心のうちを語っているようで、感情であふれていた。私はそのことと、他に彼女の服装ーカラフルなショールや首にかけたビーズなどー彼女について観察できることを語った。
彼女は「あなたといると安心します」と言った。私は「それは投影方法というもので、ある意味、私は『安全』を示しているが、いつもあなたと一緒にいるわけではないのだよ」と答えた。彼女は自分の父親のことを思い出したようで、これを聞いてつらそうにしていた。
彼女は私と会うことは彼女にとって必要なことであり、会ってくれてありがとう、と言ってくれた。彼女は自分が親からは「良い女の子」であるという、条件付きの愛でしか愛してもらえないということを言い、親からは一人の人間としては見てもらえないということを話してくれた。私は彼女の話を聞きながら、親からの承認、受け入れ、ケアを必要としている彼女の子供としての自己と、彼女の大人の自己ー境界線を引き、彼女自身のなりたい人となる、そのような自分ーを見ることができた。
これら両方の自己を誰かに見てもらうということは彼女にとってはとても嬉しいことだった。この瞬間、私たちはお互いにフォーカスしていた。私は今自分が心を開いていて彼女を受け入れることができ、彼女が誰かに手をとってもらい、サポートを受けて、誰かにかまってもらうと同時に、彼女が自分の人生を変えていく、その両方をできるということを伝えた。
彼女は多くのレベルで共鳴してくれました。私は彼女に大人として話し、私たちの間にある境界線と私たちの間にあるつながりを伝えた後、彼女に子供としての自分になり、私から必要としているものを言うよう促した。
彼女は今までずっと父親から、自分は大切な存在だと言ってもらいたかった、と答えた。私は自分自身大人になった娘がいたので、彼女のために「父親モード」で話すことを快く引き受けた。そして、私は彼女の「父親」として、彼女がどれだけ私にとって大切かを話した。
それに対し彼女は「どんなことがあっても私のことを愛している」と言って欲しいと言った。そこで私はそのことを彼女にいい、また彼女がしたことに賛成していなかったり、彼女の正確の好きではない部分があったとしても、家族としての愛に根ざしているということを伝えた。
私は彼女の本当の父親ではなかったが、彼女が必要としていることばを伝えることができ、彼女には自分の父から聞くのと同じくらいのインパクトがあった。
それは、セラピーでしっかりとした人間関係を結ぶことによりうまれることであり、人々をこのようにして変えることができるのである。
彼女はセッションのあと、自分に一体感を感じ、自分の大人と子供の自己を一人の人として結合することができた。

2015年6月15日月曜日

Case #40 - 支えが必要だけど、自立することも必要

マーサは涙をこらえながら唇を噛んでいた。私は彼女が涙をこらえていることを言うと、彼女は自分の気持ちを抑えているのだと言った。私は彼女に、深呼吸をし、今ここにいることを感じるように促すと、彼女はもっと涙がでてきた。
彼女は涙を流しながら、長く、苦しい、今までの経験を話してくれた。彼女の父親は他の都市で仕事をしていた。彼が離れている間、マーサと、母親と彼女の兄弟は小さな町へ引っ越し、マーサは母親の両親と住むことになった。しかしそこでは祖父のいじめにあった。祖父は子供達があまりうるさくすると家を追い出すと脅し、実際に何回か彼らのスーツケースを家の外に投げ出したこともあった。この事件の前にはマーサの兄弟も祖父母と住んでいたが、マーサと母親が訪問する度に祖父母はマーサに何らかの欠点を見つけ、兄弟と比べたりした。
彼女の母親はとうとう家を出て新しい場所に住み始めました。しかし、彼女は美しい女性で、彼女が働いていた店の男性達は彼女を求めてよく家に来るのでした。母親は男性達を追い払っていましたが、ある日一人の男性を家に連れ込んでしまい、彼女は浮気をし始めました。マーサは彼が家に来る時、いつも怯えていました。
そして、浮気が発見された時、母親は、彼女達が住んでいた小さなコミュニティの中で社会的に侮辱されたのでした。マーサも学校でいじめにあいました。そして、マーサの父親が戻ってきた。祖父母はマーサの母親を殴ったりし、彼女は様々な苦痛を経験し、それらがトラウマとなっていった。
マーサの話は痛みと苦しみでいっぱいだった。話をしながら彼女は私の手をにぎり、私も強く握り返した。彼女が自分の過去の話をするなか、わたしたちはそのようにして座っていた。
心理療法における物語はさまざまな種類があります。あるものは古く、死んでいて、何度も同じ話を繰り返すもので、自分の無力さを強調したり共感を得るためのものだったりします。それらのストーリーは具現化し、様々な心理療法により生き返らせ、感情を通して息を吹き返らせる必要があります。
しかし、この物語は生きていた。それは30年間ずっと解放されるのを待っており、今回のような適切な機会を通して彼女の心から流れ出てきた。
彼女が落ち着いてから、私は彼女の手を放し、彼女の隣りにただ座っていた。
マーサは、自分の人生の中で光を感じることができる経験は何度かあったことを話してくれた。それは、彼女が母親と姉妹と、パンと豆しか食べる物が無いにも関わらず、親密さがあったこと。また、彼女を支えてくれたボーイフレンドたち。特に、一番最初のボーイフレンドは様々な家族との苦痛の中にある彼女を愛し、支えてくれた。
彼女の夫も彼女を支えてくれていた。彼女は夫ととても親密な関係にあり、彼らはお互い、とても愛し合っていた。全てがよかった。しかし、結婚して20年経った今、子供達は成長し、彼女は家族関係の痛みの中で彼女の避難所となっていた職場にもう興味がなくなってきていた。
彼女は新しい方向性を探していて、個人的な成長のためにキャリアを変えようとしていました。しかし、彼女の夫は今までのようにまだ彼女の手を握っていました。彼らの関係は、夫がマーサを支えていたから両立していたのです。しかし、今彼女が独立を必要としてるなか、夫はまだマーサの手を堅く握っていました。
私は彼女に今回のセッションと彼女の夫との関係の並行性を指摘しました。彼女は人生の辛い経験を思い出す時には私を必要していた。しかし、セッションの終わりには私は彼女の手を離すことができ、彼女は私が手を握らなくても隣りに座っていれば大丈夫だった、ということを彼女に伝えました。
私は彼女の夫が、彼女が独立してこの世界へ出て行かないといけない、ということを理解できるように、そして彼の不安を取り除けるように、いくつか夫へ伝える言葉の例文を作ってあげました。また、夫が彼女を手放し、外へ出て行くことをゆるしてくれることにより、彼女が夫から必要としているサポートを得ることが出来る、というこも伝えるように促しました。それは、マーサが独立することに賛成してくれることにより、夫が彼女の意思を尊重してくれる、という「支え」でした。
今回のセッションを通してこのような決断に達することによりマーサは自分が成熟し変わっていく中で、どのように自分の人間関係を変えて行くことが出来るかを学ぶことができました。




2015年6月10日水曜日

Case #39 - 我の強い花屋さん

私がセラピーセッションでボランティアを募った時、フランは席から飛び上がるようにして反応した。前回も、彼女が一番最初に質問をした人だったことを私は覚えていた。
彼女に色々と質問をするよりも、まず彼女と私の共通点を探ることにした。彼女は、誰かが何かをして欲しいと言った時に、よく最初に手を挙げるとシェアしてくれた。私は彼女に、私もそうであるということを打ち明けた。こうすることでわたしたちに共通点ができた。私は彼女がどのような仕事をしているのかを聞くと、彼女は花屋で働いていて、いつか自分の花屋をオープンし成功させたいということを教えてくれた。彼女が明るく、自分に自身のある若い女性だというのはすぐに分かり、私は彼女の夢を応援していることを彼女に伝えた。
このようにクライアントと共通点を見つけることにより、人間関係を作っていくことができます。私は、心理学的なことを探るために、彼女にどの花が一番好きなのかを聞いてみた。彼女はひまわりが好き、と答えたので、私もひまわりは大好きだということと、ひまわりの特徴で特に好きなものを彼女にシェアした。彼女はひまわりの陽気で明るく、強く、背が高いところが好きだと教えてくれた。
私は彼女が「強い」という言葉に少し力を込めて言ったような気がしたので、彼女がどのような時に自分が強いと感じるのかを聞いてみた。彼女は自分は確かに強い女性であり、そのような自分を好いていたが、たまに怒ると乱暴になるということを教えてくれた。
私はそれを聞いて、彼女とセラピーとしてのレスリングをやってみないか、と提案した。私たちはお互い向き合い、手と手を合わせて、お互い相手の手を押すことで、レスリングごっこをした。それはふざけながら楽しく、彼女の攻撃的な面を出すことができた。このアクティビティは彼女に「怒り」というものはネガティブなものだけでなく、ポジティブなもの変えることもできることを教えてくれた。こうして、私たちの仲は更に深まった。
この社会では強い女性はよく見られていないと思う、と私は言い、彼女もそのように思う場面を体験したことが無いかを聞いてみた。彼女はたまに自分は強く出過ぎて人を圧倒してしまうことがあると言った。私が具体的な例を聞くと、彼女はある時タクシーに乗って、タクシーのメーターを使いたくないと言ったタクシードライバーに対してどなったことがある、という話をした。私はこれを聞いて、私も同じ立場だったら、彼女と同じ行動を取ったであろう、と言った。しかし、それでも彼女は自分自身をコントロールできなくなると自分が嫌になる、と言った。
そこで私は彼女のバックグラウンドを把握するために、彼女の家族の中で、自分自身をコントロールできない人がいるか聞いてみた。彼女は子供の頃、父親がよく感情を強く表していたことを教えてくれた。しかし彼女はそれを恐れるよりも自分自身もそのようになってしまったため、タクシーの時のように、自分の怒りを制御できなくなるのが嫌だった。
私は彼女の言っていることが良くわかる、と伝えてから、大人になった今、彼女が父親のどのような良い性格を受け継ぎたいかと、どのような性格を受け継ぎたくないかを考えてみるよう提案した。そして私は彼女の前に椅子を置き、その椅子が父親だと思い彼に話すように促した。私は「お父さんに正直に心のうちを話してください」と言い、彼女がその「父親」に自分が彼のどのようなところを受け継ぎたいのか、ということと、彼と同じような道を歩まないようになくしたい特徴などを話すよう言った。彼女はこのアクティビティをしたあと心が軽くなり、自分が「怒り」というものを「だめな自分」と関連させるのではなく、自分は「いつ怒るのか」を使い分けることを学ぶことができた。
これをゲシュタルト法では「統合」(インテグレーション)とよび、クライアントが認識するだけではなく、体細胞を使って認識を変えるため、身体的なものでもある。

2015年6月5日金曜日

Case #38 - 何をしても失敗する女性

ジェマは挫折というものを恐れていた。彼女は何をしても失敗したのだ。一つの会社では5回も事故をおこし、他の会社では計算ミスをしたり、等々、彼女は自分が失敗ばかりしている話を延々と続けた。私は彼女の話を聞きながら、少し身構えた。彼女は延々と失敗談を語り、泣き崩れ、私は彼女と何時間いたとしても、何の解決も見出せないような気がした。彼女は両親との問題についても話し始めた。それは、彼女は両親の家を出た後のことだったが、彼女は両親に対して非常な怒りを持っており、特に父親の言動に信頼を失っていた。彼女は明らかに助けを求めていたが、その自暴自棄な姿を見て、私は逃げたくなった。
なので、私は問題の中に私自身が入っていく必要を感じ、彼女に「ではまずあなたの挫折という問題を取り扱いましょう」と言った。まずはじめに、あなたは既に私もその挫折感に巻き込んでいる、あなたの話し方は私に影響を与えている、と伝えた。彼女はうなずき、今まで他の人も同じようなリアクションだったと語った。自暴自棄になっている人を助けるためには、その人の話を延々と聞くのではなく、その人自身の問題を露(あらわ)にすることが大切だ。そのためにはまず、その人が自暴自棄であるが故に、他の人との関係にどのような影響を表しているかを明らかにすることだ。
私はジェマにあるゲームを提案した。それは私が彼女にどう反応しているかを彼女があてて、その後、彼女が当たっているかどうかを教えてあげる、というゲームだった。彼女は、私が彼女に対して忍耐強く我慢している、とまず最初に言ってみた。私は「いいえ」と彼女に答えた。彼女は更に私が彼女に同情している、と言ってみた。「それも違う」と私は答えた。
そして、私は彼女に「私はあなたに対してイライラしています。」と正直に教えてあげた。
更に、「私が感じているそのイライラの気持ちはどのようなものか考えてみてくれませんか」と彼女に言った。彼女は、私が自分の気持ちを抑えていると思うと、言った。なので、私はそれは半分くらいしか当たっていないということを言った。また更に彼女は私が胃や胸がむかむかしているのでは、と言ってみた。
なので私は彼女に本当のことを伝えた。それは、私は彼女に対し怒りを持っており、その怒りが胸を締め付けているような感じだと。
私はジェマが自分を悲劇のヒロインにしたり、自分の人生は挫折ばかりと思っている思考傾向を変えるため、このやりとりを彼女としたのだ。彼女に、辛い思いをしているのは彼女だけでは無いということを教えたかったのだ。私にとっても辛い、ということを彼女に知ってもらいたかった。またジェマが人々(特に父親)に対して偏執を持っていたのも分かっていたので、彼女がひとり心の中で相手の気持ちを探り当てるよりも、誰かがはっきりと教えてあげたほうがいいと思ったのだ。
次にわたしたちは役割を交代してロールプレイングをした。私が彼女のようになり、彼女は私の立場になったので、私は悲しく、落胆し、何をしても失敗をする人を演じ、今度は彼女が怒る番だった。
彼女は逆の立場になってみて初めて、自分が親の様に説教したり、どなったり、批判したり、けなしたり、良い結果を出す様プレッシャーを与えたりする者であることに気づいた。
このような考えは、彼女を今一度一方的な考えから引き出し、もっと広い範囲で物事が見えるようにしたので彼女にとって良い体験だった。
それから、私は彼女にある例えで説明した。それは、彼女が「怒る」という役職のために私をリクルートし、私はあまりにも仕事が上手くできたため、彼女の話を聞きはじめてすぐに怒りを感じ始めることができたという例えだった。また、私自身も、ある意味嗜虐的でこのロールプレイングに同意する自分がいた。
私は、このゲームは二人いるからこそ成り立つ物だと彼女に言った。彼女は、このゲームで怒っている方の役割をする時に、昔祖父母に与えられていたプレッシャーも感じていたと私に打ち明けた。
こうすることにより、私は彼女が物事に対しどのように感じるのかを見る事ができた。
私は更にもう一つのロールプレイングを与えた。それにはある筋書きとキャラクターが書いてあり、彼女にそれを自分の人生の人々に当てはめて再現してもらうようお願いした。彼女はそのロールプレイもやった。こうする事によりなぜ彼女がこんなにも挫折の概念にとらわれているのか、全体像を見る事ができた。
このロールプレイをしてから、彼女に自分の人生での人々にキャラクターが似ている有名な劇を選び、説明するよう促した。彼女が選んだストーリーは今まで私と話していた状況と全く同じようなものだった。
更に、もうひとつ違うストーリーを選ぶ様彼女に言った。それは劇でも映画でも良かったが、私はもっと広いジャンルでロールプレイをできるようこのように彼女にお願いしたのだ。すると彼女はハリーポッターを選んだ。私が彼女がどのキャラクターになりたいかを聞いたところ、彼女はハリー、と答えた。
わたしは「ハリーが見る様に私を見て下さい」と彼女に言った。それは、今までのロールプレイの中で、彼女は目を通して自分が被害者だということを訴えていたからだ。
彼女はハリーになりすまし、わたしたちはハリーポッターの映画の色々な場面について話しあった。ハリーのキャラクター性(誰にも殺されることができない等)を見て行く中で、彼女はハリーとしての自分を通して、自己確立をすることができた。
彼女は自分のアイデンティティが少しずつ変わるのを感じたし、私も彼女が変わっていくのを感じる事ができた。
このプロセスを踏むためには、私が彼女に対しオープンで、正直であることが大事だった。私は彼女の人間関係を取り扱い、色々なことを試し、最後に彼女を大きく変えるものを見つけることが出来た。しかし、そこに至るまでは、その前のプロセスも全て必要であったのだ。










2015年5月26日火曜日

Case #37 - 「刺す槍」と「守る槍」

セリアは見た目から30代だと思ったが、彼女は実際は51歳で子供もいた。私がびっくりしたのは彼女の波乱万丈の人生にも関わらず、彼女はとても落ち着いた表情をしていて、恐らくそこから彼女の若々しさが出ているのだろう、と察した。
私はこれらのことを深く探る余裕はその時にはなかったが、今後彼女のセラピーに活かせると思い、覚えておくことにした。クライアントと会ってすぐの印象を自己分析するのは、とても大切なことだ。例えそれが顔なじみのクライアントでも、毎回「新しい目」でクライアントを見ることによって話している中で今までの話と今話していることが噛み合わなかったり、セラピーの上で重要な役割を示す可能性があるからだ。
セリアが抱えていた問題は、10年来トレーニングしてきたソーシャルワーカーとしての仕事を始めるのが怖い、ということだった。彼女はずっと福祉関係で働いており、やっと子供達が自立したので、ソーシャルワーカーとしての仕事を始めようというのだった。セリアは仕事を始める上で既に周りのソーシャルワーカーに支えられていたので、私はセリアの自己評価や仕事に対する恐れの原因を分析するよりも彼女が今置かれている状況を知りたかった。
彼女の話を聞いていくうちに、彼女が抱えている問題が分かった。それは、もし彼女がこのようなに本格的に仕事を始めるようになったら、夫が離婚すると言い出したことだった。私は彼女の夫の反応は少し過剰だと思ったが、男尊女卑の文化の中では彼女の夫のリアクションはそれほどびっくりするものではないのだろう。ただ、セリアとのセッションをすすめていくうちに、彼女がもう何十年も夫からの虐待を受けていることも知った。
セリアはここ10年ソーシャルワーカーの勉強をしていたのだから、なぜこの問題がもっと早く取り扱われていないのかに疑問を持った。もしかしたら彼女の教師達も何もしようとしなかったのかもしれない。
セラピーをすすめていく中で、クライアントの心(気持ち)を取り扱うだけで無く、そのクライアントが置かれている状況を把握することはとても大切だ。クライアントが現在虐待を受けている場合は、特に重要であり、それをセラピーで重点的に取り扱う必要がある。
そのため、私は彼女の真の心の問題である「恐怖」を取り扱うまで、他の問題は取り扱わないことにした。彼女は暴力は最近まで続いていたと言った。
私はこのように彼女に私自身の想いを伝えた。私は彼女に心を開いており、彼女の抱えている問題の深刻さを受け止めており、彼女の支えになってあげたいが、同時に彼女の気持ちも尊重しており、あまりずけずけと彼女の心の中に入ろうとせず、慎重にセラピーをすすめて行きたいということを正直に伝えた。
私が「恐怖というのは、家族の一員のようなものになっていませんか。」と聞くと、彼女はうなずいた。私は彼女の抱いている恐怖を人に例えて表すようにお願いした。彼女が描写した「恐怖」は黒い服を着ていて、大きな目をしていて、微笑していて、やりを持っていた。彼女はその「恐怖」を「気味が悪い」と言った。
私は彼女が「恐怖」というものをしっかりつかみとることができるように、「『恐怖』はどのような服を着ているか」など、より具体的な質問をした。その後、彼女にゲシュタルトのある心理テストをするようにお願いした。それは彼女自身が「恐怖」になり、やりを持ち大きな目をして立っている「恐怖」がどのようなものかを表してもらうことだった。
彼女は「恐怖」を表し、私も、私の描いている「恐怖」の立ち振る舞いを同じようにやってみた。このような心理テストをクライアントとやることは、セラピーの中でとても役に立つことがある。
「恐怖」をお互い表現した後、私は彼女にまた座ってもらうようにお願いした。『恐怖」を言葉で説明したり、それになってみること自体は大変なことだったので、あまりそれに時間を費やしたくなかったからだ。
彼女は、このプロセスを通して私が彼女に多くのことをしてあげたように感じており、これ以上何かをしてもらうのは悪いと言い始めた。彼女は、ずっと「男性のご機嫌取り」をするよう教わってきたので、それに対して子供の頃は反抗したが、彼女の一部になっていた。なので、私が彼女を助けるためのプロセスをしていくなかで、彼女も私に何かお返しをしないといけないように感じたのだ。
そのため、私は一度セラピーを中断し、「私はあなたと共にここにいて、心を開いていますから、あなたが私にお返ししたいものは何かを教えてください」と言った。わたしたちはしばらく沈黙の中に座っていた。そして、セリアは口を開いて私に、セラピーを通して助けてくれたことに対し感謝を捧げたい、と言った。
この事を言った後、彼女は私と共にいることに今一度安心感を覚え、次のステップをすすむ準備ができた。クライアントが今体験していることに心の耳を傾け、その時その時にクライアントにどのような心の変動が起こっているかを理解し、クライアントに合わせてセラピーを進めることは、非常に重要です。
そして、私はセリアに「恐怖は今どこにいますか」と聞いたら、彼女自身の中にいる、と答えた。そして、槍が彼女の脳みそを突いていて痛い、ということを教えてくれた。
すると、私は彼女が直面している痛みを受け止め、彼女が経験している痛みが私をとても悲しませている、ということを伝えた。私は彼女を助けたかったし、彼女を守りたかったが、どうすればいいか分からない、ということを伝えた。そのような言葉に彼女は感動したようで、わたしたちはしばらくのうち静かに座って、お互いの心の繋がりを感じていた。この心の繋がりが重要である---それは、自分のことを思いやって、一緒にいてくれて、守ろうとしていて、尚かつ「物事を直す」のに早とちりでない、そのような存在である。
この繋がりは「あなたとわたし」という二人の人が繋がっている時である。私はセラピストであり、彼女はクライアントであったが、同時にわたしたちは一緒に座って共に痛みを共有している二人の人間でもあった。私は彼女の痛みを真剣に受け止めていた。私は、ただ実験のためや恐怖を形で表すためのセラピーではなく、彼女の恐怖は何年もの虐待によって積み重ねられたものであるのを理解していたからだ。
わたしたちは、この場所で共に時間を共有し、お互い心を開くことができた。私は、とても心が動かされたし、彼女も同様だった。わたしたちはこのことをお互いに伝えた。
すると、私は彼女に「私も槍を持っています。それは守りの槍です。」と言った。 私は彼女に私と、私が持っている守りの槍の存在を心に受け入れる様に促した。
彼女はこのことをとても容易くすることができ、同時に涙も出て来た。彼女はほっと安心し、誰かが彼女のことを思いやっていることを感じることが出来た。
この動作は「セルフオブジェクト」と呼ばれる。私のことを心に受け入れるということは、彼女は自分の意思を持って何かをすることができる、ということを意味していた。今までの人生では、彼女はまわりの男性のために何かをしていたので、これは彼女にとって重要なことだった。
今回のセラピーではたくさんのことをセラピーとしてしなかったが、彼女を大きく変えるものだった。最後に私はセリアに、これから彼女がしたい仕事に対して「恐怖」という存在は今どこにいるのかを聞いた。彼女は、もう「恐怖」には脅かされないわ、と答えた。「離婚をすることになっても?」と私が聞くと、離婚をすることになっても、と彼女は答えた。以上述べたセリアとのセラピーは虐待後のセラピーの一部分に過ぎない。彼女はまた虐待のサイクルに戻ってしまう可能性もあるので、私はよく注意して見ておかないといけないし、専門家であり人を思いやる者として、そのサイクルの一部にならないように注意したい。



2015年5月6日水曜日

Case #36 - 無感覚だった女性

ブレンダは自分のアイデンティティが明確で無いということで悩んでいた。彼女は他人との間に適切な境界線を作れないということと、相手にいつも調子を合わせてしまうということで悩んでいた。
また彼女は内向的で、あまり写真を撮られたり注目を浴びたりすることを好まないということから、私は人前にさらされること(恥辱)に対し何か心の問題を抱えていることを察し、セラピーを行う上でいつも以上に注意し、彼女の心の動きに対し敏感にならないといけないことを判断した。
私はブレンダに、あなたが話したい以上には話す必要は無いのだよ、ということをはじめに伝えた。
わたしたちはグループの中にいたので、私は彼女にグループの中にいることに対しどう思うかを聞いた。彼女は、グループの人達が彼女を見てはいるが、彼女は皆に視られている感じがしない、と答えた。その答えに対し、わたしは「それは皆がまだあなたの事をあまり知らないからですか?それともあなたが皆から隠れているからですか?」と聞くと、彼女は「どっちも」と答えた。
このようなことを聞く事は、彼女の人間関係を分析することに役立った。なので、私は更に問いただした。「私があなたを視ている時もあなたは私から隠れているのですか?」彼女は「はい」と答えた。
彼女は人に見て欲しい反面、人には見られたく無いという心の行き詰まりの状態にあった。そのため、私は彼女との対話を注意深くすすめないと、自分自身がこれを直そうとするあまりおかしくなってしまうことを懸念した。
こうして私は彼女の心を無理矢理探ろうとするのでは無く、彼女が既に自分自身について言っていたことを反芻した。例えば、ブレンダが自分自身についてシェアしてくれたことや、私が彼女に関して見えているものを---例えば彼女の着ている服の色など---そのまま彼女に伝えた。
こうする事によりわたしたちの間に関係性がうまれた。私は彼女に色々と聞くのではなく、私は彼女が心を開いてくれる時、彼女と共にいて、彼女に耳を傾けている事を行動で表した。羞恥心がある人(セルフエスティームが低い人)の場合、まわりがその人のことを色々と引き出そうとするよりも、クライアント自身が自分のことをシェアする機会を与えることが大切だと思う。
彼女の目はそれでも遠くを見ている感じだったので、私は彼女にそのことを伝えた。彼女が遠くを見始めたということは、彼女がこのような人との触れ合いをまだ受け止めるまでに行っていないことを明らかにした。私が彼女に何を見ているのかと聞くと、彼女は「沢山の世界が混じっていて、たくさんの過去の人生がある場所」と言った。
彼女のこのような状態を見て私は彼女が分離を経験していることを察し、彼女が危ない状況にあることを察した。そこで、私は彼女が見ている遠い場所に居続けていいということと、私自身やグループの皆もここで座って皆彼女と同じ場所に行く事ができる、ということを話した。
私の言葉は彼女を更に別の世界へ行く事を励まし、彼女はよりいっそう「遠い世界」に浸り始めた。このような心理学方法はゲシュタルト心理で変化のパラドックスと呼ばれ、クライアントをあるがままにさせ、既にあるものに自分を近づける方法である。
彼女は「今は何も感じないわ。」と言った。
別の言葉で彼女の今の状態を表すと、彼女は完全に分離したのだ。分離した状態では、特定の方法でしかクライアントと会話することができない。
私は彼女に、あなたがより安全を感じるためには私には何ができますか、と聞いた。その問いに彼女は「誰にも見られたくないの」と答えた。
私は彼女に言われたことに従った。しかし同時に悲しみも感じる、ということをブレンダに伝えた。それは、私は彼女を全く見ていないく、見ようともしない努力をしないといけないため、彼女は完全に私から隠れている状態になるからだ。私は彼女の暖かさを感じることは出来たが、彼女へ手を差し伸べる方法を見つけることができないと伝えた。
するとブレンダは私をみつめ、「私は人の助けを借りるのは好きじゃないのよ」と言った。
ブレンダのこの言動は、私に次にどうするべきかのヒントを与えてくれた。
私はある実験を提案した。それは、彼女が両手を挙げて、片手はひとを押し出すしぐさをし、もう片方は人の助けを借りられる状態にし、手を開いておくということだった。こうすることにより、ブレンダは私の支えを受け入れることができた。私がゆっくり手を伸ばすと彼女は空いているほうの手で私の手を握ってくれた。
彼女は更に「私には感覚をもたらせない見えない力が働いている」と言った。私はグループの一人にわたしたちの前に立ってその「見えない力」を表してもらうようお願いした。彼女はその人の名前は匿名であることを希望した。
「見えない力」を表している人に対し、私は彼女にその力に対しある宣言をするように言った。彼女は「見えない力」に対し「私はあなたが私に役立つ時はあなたに耳を傾けるけど、それ以外の時は私は人の支えを感じることができるようにするわ」と言った。
この宣言はブレンダにとって識別性と統合性を表した。
彼女がこう宣言することにより、物事に対する感覚が戻り、人からの支えを受けることができ、人間関係を築くことができ、自分の存在感を感じ、人生で物事を選択する権利があるということを感じはじめることが出来た。
ブレンダとのセラピーはとっても時間がかかり、常に彼女の境界線に注意し、あまり深入りしないように注意し、彼女が感じていることさえもあまり聞かない様注意する、とても大変なものだったが私は絶対にあきらめなかった。通常、ブレンダのようにあまり心を開かない人に対し、人々はあまり深入りをしないようにしたり、表面だけでの関係を持とうとしたり、たまにはその人に過剰に興味を示したり優しくしたりすることによって圧倒させてしまいます。ブレンダのような人々に必要なのは暖かさはあるが、圧倒するほどのものでは無く、興味を持ってくれるが本人を圧倒させるほどのものでは無い、中立した関係です。これは順応性と呼ばれ、人間関係の中では重要なスキルの一つにはいります。

2015年4月29日水曜日

Case #35 - 元旦那に対しての怒り

マリオンは離婚後、元夫と親権について同意できずにいた。しかし、彼女と話すなかで、彼女が抱えている問題はただそれだけではないことが明らかになってきた。彼女の抱えている問題は元夫への不満と未解決の心の問題などであった。
私は彼女とのカウンセリングをすすめる前に、彼女が私を見る時鋭い目つきで見ていて、それがかなり印象的であることを伝えた。更に、彼女に「私とあなたの元旦那さんの共通点は男性だということで、あなたが彼に対して感じていることが私にも向けられている気がします」と伝えた。
私がなぜカウンセリングを受けに来たのかという問いに彼女は「怒りがあるから」と答えた。
私は彼女が何に対し怒っているのかを聞いたところ、マリオンは自分の今までの境遇を長々と話し始めた。私がまた少し経って「あなたのおっしゃることは分かりました。でもあなたは本当は何に対して怒りを持っているのですか」と聞いたら、また長々と彼女の今までの話しをしはじめた。
私は彼女からはっきりとした答えをもらえるまで何回か同じ質問を繰り返した。彼女はやっと、元夫が自分のビジネスのために彼女を経済的に支えることをやめ、その事で彼に裏切られたと感じ、怒りを覚えていると言った。また彼がお金の使い道に関して彼女だけで無く一緒に住んでいた彼女の両親にも嘘をついたため怒りを覚えていると言った。
私は彼女に「ええ、今あなたが怒りを感じているのは目を見れば分かります。そこで聞きたいのですが今、あなたはどのような想い(感情)を抱いているのですか?」と質問しました。
すると彼女は自分の想いというよりも、元夫に対しての判断や所見、彼に対しての意見などを私に話した。
ただ、彼女は「わたしは自分の気持ちを抑えている」とも打ち明けてくれた。
そこで私は彼女に「私が元夫だと思ってその感情をぶつけてみてください」と言った。すると彼女は自分も以前の状況の中で悪かったことなどを話し始めた。
私はもう一度彼女のフォーカスを戻し、始めに「私は...に対して怒っている。。。」という言葉から始め、私に直接怒りをぶつけるようにと彼女に伝えた。
そして、やっと彼女は自分の気持ちを表現することができ、彼女が何に対して怒っているのか言葉に出すことが出来た。私は彼女の気持ちを汲み取り、彼女が怒りを持っているのはもっともで、彼女がどうして怒るのか分かる、ということを伝えた。そして、彼女が自分の怒りを表現するうちに涙も出てきて、彼女の痛みが伝わってきた。
私は、彼女にこのように自分の気持ちを正直にぶつけ続けることを勧め、彼女はそうするうちに怒っては涙を流し、泣いては怒りをぶつけてくることができた。
又、彼女は自分が聞いてもらえることを理解するにつれ、自分に自信を持ち、自分の気持ちを素直に表現することができた。その中で、彼女が自分の気持ちを振り返り無言になり、ただ私がうなずいている時もあった。
セッションが終わる頃には彼女の心はとても軽くなり、今まで離婚後抱えていた痛みと怒りを外に出すことができていた。
彼女は自分自身の感情に押しつぶされない様に長々と自分の体験を話していたが、私はこのプロセスが上手くいくために、彼女を常に自分の感情にフォーカスさせ、この体験を通してどのように感じているかを理解させ、彼女の体験に自分もロールプレーをして入る必要があった。私は彼女に人間関係による怒りを真正面からぶつける機会を与え、彼女が自分の心のうちを上手く表現できるようサポートし励ましてあげた。それをうまくできるまでは少し時間がかかった。また、私は彼女が自分の感情と向き合うのを回避しようとしているのが分かっていたので、彼女が自分が体験したことや感じたことと向き合える様助けてあげた。
また、彼女の話を聞きながらわたしは頷き、彼女の話に耳を傾けた...それは彼女がずっと求めていたことであり、彼女は今までずっと誰かに自分のことを見てほしい、聞いてほしい、と思っていたのだ。私は彼女の元夫では無かったが、彼女が満足を得るには十分な「代理」だった。又、私が男性だということは彼女の中の怒りを掻き立てるには十分であったし、私の彼女に対する受容性(彼女の話しを受け入れる態度)はただ演技をしているだけでは無いということを彼女は感じることができた。
特にこのセッションを通して注目したいのは、彼女が怒鳴ったり、叫んだり、枕を叩いたり、声を張り上げたりしなかったことだ。怒りというものはその人がどのように人との関係で用いるか、また自分がどのように自分の怒りに対し対応するかによって変わり、必ずしも感情表現をするドラマチックなセラピーを通してではない。

2015年4月24日金曜日

Case #34 - コンタクト法(ひと触れ合うこと)と正直さ

ネーソンは体格の良い男性で、気配りがうまく、その場にいると存在感がある人だった。
彼の抱えていた問題は人と正直になることができないということだった。
ネーソンは人とほとんど喧嘩をしたり、口論したりすることがなかったし、仕事や家でもおおらかな人だった。
彼が子供の頃、兄と姉が良く激しい喧嘩をしていた中、ネーソンは「良い子」として育ってきた。子供のころ、ネーソンを大きく影響した出来事がいくつかあった。一つは、彼が兄に対し非常な怒りを覚え、兄に物を投げ、もう少しで兄の目を突き刺してしまいそうになった時。もう一つはネーソンが学校で同級生の男の子を殴り、その同級生がネーソンの家に来て彼の顔を引っ掻いたこと。
その時以来ネーソンは内気になり、あまり自分の感情を出さなくなった。
ネーソンは明らかに権力のありそうな人で、体格からもそれが分かるほどだったので、私はネーソンが自分に自身を持っていないと打ち明けてくれた時はとてもびっくりした。
彼は他人に対しとても厳しく、そのためあまり自分の考えを公言しないようにしていると私に教えてくれた。
なので、私はまず彼が他人と正直に付き合うことができるよう、いくつかのプロセスをふむことにした。
このプロセスには3つの要素があった。それは、「彼が物事をどう考えているか」、「彼が物事に対し感じたこと」、そして「彼が他人にして欲しいこと」だ。
私はこのプロセスの一連を彼と練習することが出来、彼は簡単にこのプロセスを取得する事が出来た。
私はこれをauthentic meeting(正直に人と向き合う練習)と呼んでいる。このプロセスを繰り返すことで人との会話でも自分の正直な気持ちを話せるようになり、人間関係でも真っ正面から人と向き合うことができるようになる。
私はネーソンに3人の人とこのプロセスの練習をしてみることをすすめた。一人目は予想通りの対応をしてくれた。2人目の女性はわりと複雑な対応をしてきたので、ネーソンはそれにどう応対すればいいのか分からなくなってしまった。私は彼にフィーリングステートメント(感情を表す文章)を使うように勧めた。私は、特に女性とは、一つauthentic meeting statement(その人に対し正直に自分の考えなどを伝える)をするごとに、3つフィーリングステートメントを入れること、と教えた。
その後彼は3人目の人ともauthentic meetingの練習をした。
私は「authentic meetingをやってみて、どう?」と聞くと、「結構簡単だった」と彼は答えてくれた。
彼の答えを聞き、私はネーソンは少し方向性を示してあげ、それを行動に移すためのサポートさえあれば上手くできるクライアントだということが分かった。
男性として、彼ははっきりとした指示を求めていた。そして力のある者として、彼は自分のプライドを曲げずに自分を助けてくれる人を密かに求めていた。
ネーソンはこのプロセスを一人でも上手く続けていくことができる、と私は確信した。
もちろん、彼の子供の頃のことや彼が問題を回避していることに焦点をあてることもできたが、この方法は今現在の彼の状態や、これからの事にフォーカスすることができ、すぐに効果が見れる方法だった。彼が自分に自身が無いのを見ると、このように早く結果が見れるものはとても大事だと思う。またこのauthentic meetingというプロセスは彼がこれからも人と正直に向き合っていくために良い土台になると思う。
ゲシュタルト心理学でコンタクト(人との触れ合い)はひとつのキーポイントであり、今回のセッションではコンタクト法を用いている。

2015年4月17日金曜日

Case #33 - 包み隠さず心を開く

ジェームズは一週間休みもなく働き、よく他の都市へ出張のため飛んだりしており、金曜日には疲れて家に帰ってきていた。そのため、彼はいつも家に帰ると、妻と子供達が彼を待っている「憩いの場所」を求めていた。
しかし彼の妻はトップレベルの人事マネージャーとして働いており、ほとんど家を出ていることが多かった。彼は自分の気持ちを彼女に伝えると、彼女は自分の仕事も大事だし、彼の気持ちの整理は彼女の責任では無い、と答えた。
もう結婚して何年も経っており、ジェームズ夫婦は2人とも自己成長と占星術に興味があった。ジェームズは自分はかに座で、自分の気持ちには敏感なタイプだと言っていた。
彼らはお互いを心から愛していたが、同時にけんかもよくあったのでジェームズはけんかを減らして夫婦としてもっと仲良くなりたいと思っていた。
これを聞いて私は彼らの夫婦関係をどのように仲裁したらいいのかを思いつくことができた。
わたしはジェームズに、彼の妻がして欲しいこと、ジェームズが自分にして欲しいと思っているように、妻が夫にして欲しいことはどのようなことがあるか、と聞いてみた。その問いに対し、彼は妻が仕事でのプレゼンをする時に、そのことを彼に話し彼の理解を得、彼女の仕事を認めて欲しいと思っていることを私に話してくれた。
私は彼に他にも何かないか聞いたところ、彼は妻が(大体は自己成長に関する)読書をする際に、彼にも読んで一緒に本のことを話したいと思っている、と教えてくれた。
私はジェームズに彼が妻の望んでいることをしているか聞いたところ、彼は「ある程度やっているけど、彼女が望んでいるほどはしていない」と答えた。
そのため、私はまずジェームズが奥さんの望んでいることを真剣に受け止め、それらを誠心誠意をもって行動にうつすよう勧めた。
まずは、これらの事をある程度の期間行ってから、ジェームズにとって妻が金曜日家にいることがどれほど大切なのか、彼の切実な想いを妻に伝えるようすすめた。
私は自分の体験を例として挙げた。
私が子供のころ、私の家では誕生日というのはとても大切な日として祝われていた。しかし私の妻はほとんど祝ってもらうことが無かった。しかも、彼女の姉妹は祝ってもらえたのに彼女の誕生日は忘れられていた、ということもあった。
だから私の妻は「誕生日」というものに対しあまり良い感情を抱いていなく、自分の誕生日のお祝いはこじんまりとしたものが好きだった。
しかし私は誕生日は「自分が主役」と思っていたし、そのように他の人にも思って欲しかった。だから妻が私の誕生日にそのようにしてくれなかった時はとても心が傷ついた。ただ、妻は私のこの気持ちを理解することがなかなかできなかった。
-
このことに対し、私が妻に伝える「切実な想い」とはこういうものになると思う。
僕は君が「誕生日」というものに対しあまり良い感情を抱いていないのをしっているし、子供のころあまり誕生日に良い経験をしていないのを良く分かっている。それでも僕の誕生日は特別な日として祝ってくれようとすごく頑張ってくれているのを知っているし、本当に感謝している。でも、たまに僕の誕生日でも君は色々な理由で気分が向かなく、自分がやりたいこと以上のことをしてくれるのが難しい時もあったと思う。君は自分の誕生日はあまり特別な日として祝われていなかったという経験から、「誕生日」という日にはあまり興味がないことも知っている。しかし、僕は自分の誕生日というものに対して、少し違う想いを持っている。僕は誕生日の日は「自分が一番」というのが普通だと思うし、もし君が気分が向かなくても、一年のうちその日だけ、特別な日として扱ってくれると凄く嬉しい。そうしてくれると嬉しいし、君が無理をしてでも特別な日としてくれようとしているのを分かっているから、尚更嬉しいと思う。君にとってこの話は少し重いのが分かっているから、このことを話すのは僕にとっても難しいことだ。でも、君がこのことについて考えてくれたら嬉しいと思うし、少し考えてからまた話したかったら、今度また話そう。
--
私が自分の実体験から語ることにより、ジェームズに具体的に、どう奥さんに自分の思いを伝えることができるのか、例を示すことができた。
ゲシュタルト法は人との関係をより深め、正直に人と向き合い、人とのつながりと信頼感をより良くしていけるようにする心理学方法だ。既に基本的はコミュニケーション方法を分かっているクライアントに対し、このように対応するのを、一つの例して挙げている。

2015年4月10日金曜日

Case #32 - 自分の今持っているものを活用する

ダイアンは気がかりなことが2つあった。まず一つめは12歳の息子が、彼女が望んでいるほど勉強をしていなかったことだった。
私は息子さんの成績に関して、数字をつけるとしたらどれくらいか聞いたところ、彼女は6か7と答えた。息子さんが宿題をやっているか、という問いには、きちんとしていると彼女は答えた。しかし、優秀な学校に入るためには優秀な成績が必要なので、彼女はプレッシャーを感じていた。
彼女との対話で、私はまず自分の教育論を彼女に伝えた。私は子供が親を敬うべきだと思うし、子供にはバランスのある生活をさせることがいいとも思っているが、子供が優秀な成績をとるということが人生での一番のゴールであるとも思っていない、ということを伝えた。
私が自分の考えをダイアンに伝え、お互いどのような点で違う意見があるのかを見つけることは、私が彼女を助ける上で(また私ができることに限りがあることも知るため)とても重要であった。
彼女はいくつかの教育本を読んでから、息子に少し余裕を持って対応しようとしていたが、彼の将来のことも心配で、どのようにうまくやる気を起こさせることができるのかわからなく、心の葛藤を覚えていた。
そこで、私は彼女にこう提案した。まず息子さんと座って話しをし、彼の成長の上でダイアンにとって何が大切なのかを伝えること。
そうした後に彼女は息子が、今自分の直面している現状をはっきりと理解できるよう、どのような状況下にあるのかを伝えるよう提案した。学校や社会では競争率が激しいということ、また特定の学校に入るためにはある程度の成績が必要だということ。息子が理解しやすいように、様々な学校と入学に必要な条件、またそれぞれの学校に通う上での良い点、マイナスな点を挙げるよう、提案した。
このように提案した後、息子が自分の目標設定をし、自分が将来どのようになりたいか、またそれを実現するにはどのようなことをしないといけないかを考えていくことができるよう、母として息子を支えるよう提案した。
こうすることでダイアンは息子に自分の気持ちを正直に伝え、且つ彼が自分で物事を判断できるよう、支えることもできる。息子に対しての想いから自分が息子の代わりに物事を判断し進めるのでは無く、息子に責任を取らせ、その上で彼を陰で支えるということができる。
彼女のもう一つの問題は夫との関係だった。ダイアンの夫は帰宅後、ビールを飲み、新聞を読んで、自分のブログを書き、妻と子供達は完全に無視するのだった。
もちろん、ダイアンはこのような夫の態度に愛想を尽かしていたが、自分ではどうしていいのか分からなかった。
夫はたまに家族と時間を過ごしたり、家族行事にを企画し、家族と過ごす時間を自ら作り、料理をしてくれることもあった。
しかし、彼は昔からあまり会話が得意ではなかったのは、ダイアンも承知済みだった。
ダイアンの話を聞いていると、夫に嫌みを言ったり、要求をしたり、お互いどのように思っているかを言葉を通して伝えるのは夫にはあまり効果がなさそうなのが分かってきた。
私はダイアンに夫のブログはどのようなものかを聞いてみた。彼女は、夫のブログは自分の考えを明確に書いているし、面白いし、おもしろいコメント付きの写真も載っている、と教えてくれた。彼女は夫と会話する時もそのように楽しませてくれることを願っていた。
これを聞いて、私はダイアンがするべきことをすぐに思いついた。彼女は夫を変えることはできないが、夫の趣味に参加することができる、と。彼女に夫がipadを持っているか聞くと、彼女は「私が隠した」と答えた。
私は彼女に夫にすぐにでもipadを返し、自分も一つ買うよう指示した。そうすることにより、ダイアンは夫のブログを通して彼と会話をすることができると思った。夫はブログに投稿してくれる人には必ず返事をしていたので、彼女はブログに投稿し、彼にメモや、手紙、一行コメントを送ることで彼とうまくコミュニケーションを取ることができると思った。また、彼が座って新聞を読んでいる時でもちょっとしたコメントをブログに投稿してもいい。更には、彼に手紙を書き、それをプリントし、夫に郵送したり彼の枕元に置くのでもいい。
こうすることによって、私は彼女が既にもっているものを活用できるようにした。特に彼女との精神的な面のカウンセリングをしたり、夫があまり彼女と時間を過ごしてくれないのは彼女にどこか悪い所があるのだ、というようなことを思わせないようにしていた。むしろ、彼女自身の今もっているものでクリエイティブな解決策を考え、夫とのある程度決まった形の夫婦関係からどのように一歩踏み出せるかを一緒に考えた。

2015年3月28日土曜日

Case #31 - 親密な夫婦関係を築くためセックスを用いる

ルイーズは夫との夫婦関係に物足りなさを感じていた。
彼女の夫は5年前に不倫関係に陥った。不倫は1年ほど続いたが、夫は妻にそのことを告白し、ひざまずき赦しを乞いた。それで終わったはずだった。
その後、ルイスと夫との関係は徐々によくなってきたが、ルイスはまだ心の中に抱えている問題がいくつかあった。
夫が不倫のことを妻に告白したとき、ルイスはわりと冷静に対応することができた。彼が離婚を選ぶのかどうかなど、冷静に考えることができた。彼女の対処法は状況を把握し、彼女と夫がどのような立場にいるのかを考えることだったし、それはこの場を切り抜けるには良い心の生存方法とも思えた。
しかし、後になってから悲しみがおそって来た。
最近は怒りも感じていた。
しかしルイスは夫に自分の心に感じていることを打ち明けなかった。それは、彼女の怒りは自分のせいであると夫は自覚していたので、もし彼女にあまりにも怒りがあれば、夫は離婚をしてもいいと言っていたからだ。ルイスは、自分の怒りを夫にうちあけたら、夫が彼女のもとを去ってしまうのでは、と恐れていいた。
しかしながら、それらの気持ちは彼女の心をどんどん蝕んでいっている。夫との関係は改善してきたが、ルイスは未だに夫に対して完全に心を開けていない。これは夫婦生活にも影響していた。私がルイスに夫との夫婦関係について聞くと、1ヶ月に4回程度しかセックスをしないと彼女は答えた。
私は更にルイスと夫が一日のうちどれくらい会話する時間をもつかと聞いたところ、1日30分程度との答えが返って来た。
私は彼女に、夫の感情知性度 (emotional intelligence level)を聞いたところ、彼女は「3」と答えた。あきらかに、この程度では夫に自分の気持ちを伝えるのは難しいと私は判断した。彼女が自分の気持ちを表現できるようにしたとしても、あまり役に立たないだろう。怒りを外に出すことはできるが、夫がそれに対応できるかどうか分からないままでは、彼らの関係をより親密にするのは難しいと思った。だが、彼女が夫に自分の心の中を打ち明けずには、表面的とも言える彼らの夫婦としての関係を変えるのは難しいだろう。
ゲシュタルト療法は「赦し」にフォーカスするよりも「ありのまま」に焦点をあてている。しかし、今回の場合、ルイスがまだ自分でも気づいていなかった対処法を彼女は既にいくつか持っていた。
ルイスは教師をしていたが、年々、指導する上で「やるべきこと、やらぬべきこと」に固執することをやめ、指導方法を変えるよう努力していた。そして指導方法を変えることで彼女は自分の生徒達が変わっていくことに気づき始めた。
また、彼女は近年「自分を探す旅」もはじめていた。
なので、私は彼女が自分自身で問題に向き合うための方法を持っていることを理解しており、彼女は成長しようと努力しているのも目に見えていた。
ただ、残念ながら夫との関係にはまだこれらのことが適用されていないようだった。
私はルイスの精神面や私との対話によるセラピーよりも、彼女と夫の夫婦関係にフォーカスすることが大切だと思った。
そこでいくつか「宿題」を出すことにした。
わたしは一つの条件をだした。より親密な関係を気づくために夫とのセックスを増やすこと。
私は彼女にこう伝えた。夫ともっとセックスをしたい、もっと近い関係を築きたいと伝えなさい、と。そしてそのためには夫ともっと親密な関係を気づく必要があると。
そして、一日のうち30分は一緒に過ごし、親密な関係を築きあげることを提示した。例えば、小さいことでもお互い正直に自分の思いを伝える、一緒に本を読み、読書感想をシェアする、お互いの言っていることに耳を傾ける、感情を表現する、お互い自分がされて嫌だと思うことなどを分かち合う場所を作る、など。そのようにしてお互いの信頼と親密感をより良くしていくことができると思った。
確かに、「どうして私だけががんばらないといけないのだろう」という彼女の気持ちもわかる。ある意味、彼女が先生の立場をしていて、彼女が支持をとって物事をすすめないといけないし、夫にうまく自分の怒りを伝えることができるように、彼女が先導して働きかけ、彼よりも2倍もの努力をしないといけない、というのは確かに不公平だと私も思う。
しかし、こうすることにより、沢山の祝福もあるし、彼女が求めている「夫とのより良い関係」もこうすることにより築くことができるだろう。
そして、ルイスがひとりで頑張るのではなく、夫と妻として同じ目標に向かって歩んでいくことができると思う。
上記で述べたアプローチ法は「カップルとしての関係を片方を通して改善する」という方法を用いた。というのは、この方法を用いる際にはクライアント個人にフォーカスするよりも、男女(カップルとして)の関係に焦点をおくことが重要だからだ。そうすることによって、お互いの関係を強める方法を探っていくことができる。
多くの場合「感情」、「アイデンティティー」、「自分の人生ストーリー」などは男女の関係(カップルの関係)から形成されていることがある。そのため、ものごとに変化をもたらしたい時、個人の体験だけに集中するよりも、カップルとしての関係を変えていくのが効率的である。ゲシュタルト心理学ではこのように、個々にフォーカスするよりも全体を変えていくアプローチである。
夫の態度を変えるためにセックスを用いるというのは利用しているように見えるが、特に考えずにこのようなことをしている人は結構いる。もし誰かが自分のしていることを自分で理解し、それを人間関係の中で正直に相手に伝えていくのなら、それは自己利用のためではなく、相手に対して正直になることであると私は思う。また、そのような「交換」はこのような例ではカップルとしての関係をより良くするための方法であるとも思う。

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