
彼はいわゆる「パーティーガール」と呼ばれるお酒のあるパーティーが好きで、遊び回っている女性に魅力を感じる事を自分でも気づいていた。今の彼女に出会うまでは彼がどんなに努力しても長続きする関係を持つことができなかった。
彼は今幸せだったが、ひとつ気がかりなことは、今の恋人が飲みに行くことが好きだということだった。彼自身も飲み会などのパーティーは嫌いではなかったが、たまに早くパーティーを抜け出したいこともあった。
また飲み会などに行くことによって思った以上にお酒を飲んでしまうことがあった。
アルコールや人間関係の行動パターンを考えるとき、問題自体にフォーカスするよりも、もっと広い範囲で物事を見る必要がある。ゲシュタルト心理学ではこれをフィールドと呼んでいる。このフィールドを探って行く方法はいくつかあり、家族心理学(家族性発現)で用いられる方法だ。個人療法の中でも、範囲を広げて色々な要素を見ることが求められる時もある。
そこで私は彼の両親と祖父母について伺った。彼の両親はとても仲が良かった。
彼の父方の母親は、彼女の時代にしてはとても冒険好きな人で、良く旅行に出かけたりしたし、晩婚だった。彼女はまわりの人に人気のある女性だったが、母親としてはかまってくれない時もあったようだ。なので、彼の親子関係に対する思いはどうやら父方のほうから来ているようだった。マルチンはいままでこのような事を考えたこともなかったが、こうして見てみると自分がなぜ社交的だが一つの関係で長続きしない女性に魅力を感じるのかが分かってきた。
「過去」のことが分かった彼が次にするべきことは、「現在」へ移行することだった。私は彼の好きな「パーティーガール」を表す椅子を彼の前におき、彼にその女性にどのような感情があるか考えるように言った。それには魅力だけでなく、過去の女性関係の痛みなど、様々な感情が入り交じっていた。私は、彼がその「女性」の前に座った時、どのような心の動きがあるか聞いてみた。彼は自分の中で興奮と怒りを感じること、そして虚しさも感じる、と言った。私は彼の体の部分でどこにこの感情を感じるのかを聞いてみたところ、彼は自分の胸に息詰りを感じると言った。
また彼は今の恋人がお酒をたくさん飲み始める時にもパニックや恐れに似た、同じような気持ちを感じると言った。こうなった時、彼は大体彼女に小言を言うか、何も言う事ができず一人で怒りを溜め込むのだった。
私はこれを聞いて彼に「今の感情を持ったまま、椅子に座っている『彼女』に自分の思いを話してみてください」と言った。
これは彼には非常に難しいことで、彼はそれをしようとするととても不快な気持ちになると言った。
なので、私は彼に『彼女』と場所を代わり、今度はマルチンが椅子に座り、自分が彼女になりきって、『マルチン』に話す様に言った。椅子に座った彼は反抗的になり、人から何か言われるのを嫌い、「あなたが私のことを大切に思っているなら、私にどうこうしろと言わずに、自由にさせてくれるはずだわ」と言った。
実際、マルチンは彼女がこのようなことを言うのを耳にしてたので、はじめて聞いたことではなかった。
私は再度椅子に向かって話すように、彼に私の隣りに来るよう指示し、彼の中の反抗的な面について聞いてみた。ゲシュタルト療法では人の心の中から現われてくる対極性や極性(polarity)に注目しており、特に自分が否定している心の一部が恋人や結婚相手などパートナーの性格にあらわれることがある。
いつも反抗的なのは彼の恋人だったので、マルチン自身、このような考えをするのに慣れていなかった。
私は、「もしあなたが自由で、どんなことでもできるとしたら、どのような『反抗的』なことをしたいですか」と聞いた。
彼は職場の上司が独裁的で厳しくいつもそれに耐えていて、上司に言い返したりしていなかったと言った。
私は、彼の「上司」を今度は椅子に座らせ、上司に言い返す様に促した。彼はこうすることにより、肩の荷が軽くなり、気分も軽やかになった。
私たちは他のシナリオでもこれを何回か試し、毎回、彼は「反抗的」なことを相手に言い、それによって心の重荷が解消された。彼は今まで、いわゆる「いい子ちゃん」を演じていたのだ。
このセッションを通して、彼は自信を得ることができ、弱者の立場だった自分が強くなったと感じることができた。
これは全体的なセラピーの一部でしかないが、自分の心を相手に投影することにより、負のエネルギーが移動し、私たちはよりバランスの取れ生き生きとした人生を歩ことができる。それはまさしくゲシュタルト心理学の目的でもあるのだ。
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