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2016年9月3日土曜日

Case #83 - 今まで大変だったけど、一人でかかえず私とその問題を共有してください。

アデルは政府機関のカスタマーサービスセンターで20年間働いていて、お客さんからの評判は良かったし、自分の仕事もうまくこなしていたが、仕事以外ではあまり社交的ではなかったと話してくれた。同僚は彼女の文句を言っていたし、どこにいってもなかなか友達ができなかった。彼女は人との繋がりを求めていたが、ひとりぼっちで、友達もわずかしかいなく、なかなか前へ進むことができなかった。
彼女はまわりの人が自分の努力を認めてくれず、彼女のことを拒否し、また自分自信の存在が嫌になってきたと何度も話した。
私は彼女の話を聞くうちにだんだんといらいらがつのって来た。また彼女に対し優しさや思いやりではなく、彼女のことを否定し、彼女から逃げてしまいたい気持ちになってしまった。そのため私は落ち着きがなく、居心地が悪くなった。
そして私は彼女に「アデルさん、今あなたのしている問題への対処法はうまくセラピーへとつなげることができていない気がします。私はあなたの話を聞くなかで、あなたに近づくのではなく心が遠ざかっている気がします。私は自分がいらだって、あなたの話を聞きたくなくなってしまっています。お願いですから、『物事の話をする』のをやめて、私と一緒に今現在をみつめてくださいませんか。」と言った。
彼女は話をやめたが、とても緊張した様子で私と目を合わせなかった(彼女は話しをしている最中も、始終部屋を見回していた)し、悲嘆に暮れているようだったが、彼女の「悲嘆」は私が共感できるものではなかった。
そして、私は力強い声で彼女に言った。「アデルさん、あなたはほんとうに大変な人生を送っています。あなたは人とつながっていなく、私とのつながりさえも、今断とうとしています。お願いですから、今ある人生と向き合い、私の目を見て、私と心のつながりをもってください。わたしはそうする心の準備ができていますが、あなた自身にもそうしてもらわないとお互い認めうことができません。」
彼女は最初はそれを否定したので、私は話をするのをやめるようお願いした。今は、彼女は自分が悲劇のヒロインであるストーリーしか見えなかったので、彼女の注意を十分にひく必要があったからだ。
彼女は話をやめ、恐る恐る私を見た。私は彼女に優しく話しかけ、彼女との心のつながりがだんだんと築かれていくのを感じていることを伝え、彼女にもそうするよう促した。最初は難しかったが、彼女は徐々に私との心のつながりを持ち始めることができた。そして、彼女が今ある人生を見つめはじめるにつれ、私の心もだんだん柔らかくなり、そうなっていることを彼女に伝えた。また、今彼女の人生でどのようなことが起こっているかにも関わらず、私は今彼女と心がつながっていて、彼女を支えるためここにいるということも伝えた。彼女は私の言葉をゆっくりと受け入れたが、妙なことにそれを受け入れるのもしぶしぶとだった。彼女のように、ある人々は誰かからの助けを心底求めているのだが、自分の悲劇のストーリーにとらわれすぎて、そのような助けをなかなか受け入れることができないのだ。なので、彼らの物語にはられた「霧」を切り開いていくには多大なエネルギーと直接的な介入が必要となるのだ。

2016年8月29日月曜日

Case #82 - 父を探して

イアンは父親との関係を修復しようとしていた。
彼は41歳で、母親は8年間がんと戦った後、去年亡くなったのだった。母の闘病中はイアンが看病をしていた。彼の兄も母の看病を申し出てくれたが、イアンが彼女の世話をはじめてからは、母は他の人にお世話をしてもらうことを拒んだ。
父は母が癌と診断される半年前から出張でずっと家を出ていたため、母が診断された当時から家族から離れていた。父は他の人と一緒にビジネスをしていたが、それがうまく行っていなかったので、ビジネスを回復しようと一生懸命で忙しかった。
そのためイアンが最後まで母の看病をしたのだった。イアンは母をとても尊敬していた。母は医師としての訓練をうけていたが、父と一緒になるために国を出てからはその資格は認められず、看護師として働いてきたのだった。彼女は人生を全うし、威厳を保っている素敵な女性だった。
イアンは父が母をあまり大切にしていないと感じていたため、母への態度とは反対に父は尊敬することができなかった。また彼が育つ中で父が一家の長としてうまくリーダーシップをとることができていないように思えた。
彼の話を聞く中で、複雑な問題が混在しているため、一つ一つの問題を解いていくにはある程度の時間を要することが分かった。
問題は、どこからそれらの問題解決をはじめるかということ、今何が一番大切なのかということと、彼が父との関係をよくしようと努力しているなかで、わたしは何をすることができるのか、ということだった。
なのでわたしは自分の家族について話した。それは、私の母もとても愛にあふれた素敵な女性だったが、父は自己中で一緒にいたくなかったということを。
そんな家族で育ったため、私がどんなにバランスのとれた見方で家族を見ようとしても、母を批判的なまなざしで見る事はできなかった。イアンは彼も私と同じ思いだと言った。しかし、大人になって分かったのは母からの「愛」は彼女の必要を満たそうとしているものでもあり、そのため私ははっきりと自分と母との間に境界線をひくことができなかったということも話した。イアンはそれを聞いて頷いた。また、私は父とよくぶつかったことも話し、彼との関係は私を養うものではなかったということを話した。するとイアンは再びうなずいた。
以前、私は自分がカウンセリングを受けたときにセラピストに、「それではあなたはお父さんとどれくらいの時間を過ごしたいのですか。」と聞かれたことがあったので、イアンにも同じことを聞いた。その質問を投げかけた時に、彼はまだ父と同居していることが分かったのだ。
それを聞いて私は心理教育者として彼にアドバイスをすることにした。普段はアドバイスをするのではなく、クライアントと対等の立場で話すのだが、今回は例外だった。彼に一般的な統計としては、家族と一緒に同居している独身男性は結婚する確率が限りなく低いということを話した。なので、彼が今の家を出ることをすすめた。彼がこのことに対してどう思っているか確認していみると、彼は素直に私の言葉を受け入れた。イアンは誰かに自由になる許可を必要としていたようだった。
次に私はどのくらいの頻度でお父さんと会うのが適当か聞いてみた。彼が週一回に食事をする程度、といったので私は具体的にどこで会うかを聞いてみた。このように具体性をはっきりさせることで、より行動に起こしやすくなるため、具体的な内容を話し合うことは重要である。イアンは私の問いに、彼の家に招いて料理をしてあげる、と答えた。
イアンは今まで10年ほどずっと母へ「与え続け」ていたので、いつも自分が誰かに何かをすることを考えており、どうやってそれを止めたらいいか自分では分からなかったのだ。彼の思いは良好的なものだったが、どこで境界線をひいたらいいか分からなかったようだ。更には、彼の父に対しての思いを考慮すると、イアンがいつも何かをするので心の奥底ではだんだんと怒りがたまってきてしまうのが目に見えた。私がレストランに行くように提案したので、彼はそれに賛成してくれた。先ほど言ったように、彼は「良い父親像」である私から自分の必要を満たすためのものを提案して欲しかったし、それをする許可を得たかったのかもしれない。
私がレストランではどれくらいの時間を過ごすのか聞いたところ、彼は1時間半と言ったので、その間には何を話すのかを聞いてみた。
イアンは、普段は父とは仕事の話はしないが、これからは父と仕事の話もしていきたいと言った。他には何かあるかと聞くと、彼は父の健康状態が気になるのでそのことと、自分自身の将来の計画について話したいと言った。
このようにイアンが父との新しい関係を築くきっかけをつくることができた。まだまだ課題があったが、はじめの一歩を歩みだすことができたのだ。
イアンは様々なことにおいてしっかりとした基盤が必要だった。それらのことは普段、父から受け取るものだが、彼はそれを父から受けることができず、自分の心をケアの仕方や、人生においての方向性をしっかり持つことができていなかった。そのため、私が「父親像」になることにより、彼が一体何を必要としているのかを探りだす助けをすることができるのだ。私とのセッションを続けることにより、彼は父を見下す姿から、何かにおいて父を尊敬する段階への手助けとなり、また私が「父親」の役をすることで、彼自信が父の立場になるための準備をし、「父」という役割のなかで、子供の心の糧になるものを与えるために何ができるかを考えさせることができたのだ。










2016年8月2日火曜日

Case #81 - 「涙」を「心の叫び」へと変える

ジェーンとのセッションは「攻撃的な面を外に出し、人との関係を円滑にさせる」ためのカウンセリングセッションだった。「攻撃的な面」というのは怒りや憤りなどの強い感情のことを意味している。ゲシュタルト法では「攻撃性」というのは悪いものでは無く、むしろクライアントにとって良いものだと考えられている。それは無意識に取り入れられた考え(「成すべき」と本人が思っていること」)を分解していくために効果的だからだ。
ジェーンはしきりに泣き続けていたので、彼女が今どのような気持ちかを聞いてみると「怒りがある」と答えた。
多くの女性は怒りを納めるように教えられているので、怒りの代わりに涙を流す人がよくいるのだ。しかし「泣く」ということは「無力さ」へと変わるため、本当の解決へはつながらない。
そこで私はジェーンに自分の体と心を一体にするよう促した。まず息を吸った時に鼻からお腹へと移動させ、その後、足全体へと吸った息を移動させていくように言った。私は彼女のエネルギーが体の下から上へと移動しているのが見えた。彼女の怒りはどんどん上へと体の中をのぼり、目へと、そして涙へと変えられて行ったのだ。そのため彼女に自分の足をしっかりと地につけ、エネルギーを上から下へと受け流して欲しかった。
まずは足踏みをするように言った。彼女は最初は体が硬直し、なかなかできなかった。私は彼女を支え、呼吸を先ほど言った通りしっかりするように促し、彼女が安全な場所で怒りをしっかりと表に表すことができるよう支え続けた。このようにクライアントが心の奥底にたまっているものをしっかりと表に出すことができるよう支えるのもセラピストの役目の一つだ。
彼女が「地に足をつける」ことを促していくなかで、もう一度足踏みをするようにと言った。彼女ははじめはなかなかできなかったが、ようやく静かに足踏みをした。私は彼女に自分の怒りを感じ取り、それをふくらはぎから足の先へと受け流していくように促した。
また彼女の足踏みを強くさせることにより、彼女のなかにある「攻撃的な一面」を受け止めるよう促した。そして、足踏みに音を加えた。私は彼女と向かい合い彼女と同じ強さで足踏みをした。それは、ありのままの彼女を受け止めてくれる人がいる、ということを彼女が感じることができるようにだった。
これこそがゲシュタルト体験なのだ。それは私たちの選択肢と度量を広げて行くために、問題について「語り合う」ことから、自分の「おかしな」行動を探っていくことである。今回のようなセッションではセラピストのサポートを多いに必要としており、クライアントとのアクティビティもクライアントが本当に必要としている根本的な問題を探るものでないといけない。



2016年7月27日水曜日

Case #80 - 子供のままの女性

ダイアンは体は小さかったがネルギッシュな若い女性だった。彼女の話し方は「小さい女の子」のようで、よく口をとがらせて話した。
彼女はグループセラピーに来ても「自分が求めているものはここにはない」と言い、「もう全部前に聞いたことだ」や「私はもう知っているわ」などと言った。
これらの言葉以外にも彼女の行動は子供が駄々をこねているようだった。彼女に自分の年齢をいくつに感じるかと聞くと、5歳、と彼女は言った。
「年齢を逆戻り」した人へは相手の精神年齢に合わせセラピーを行うこともあるが、そのような問題は長期的なセラピーを必要としており、必ずしもクライアントにあてはまるとは限らない。
なので私はダイアンの「現在の自分」を取り扱うことにした。「現在」に焦点をおくことにより、物事を今の状況を考えながら判断していき、しっかりと根付いた現実性を保つことができる。私がそのように判断した理由は、ダイアンが「小さい女の子」視点に凝り固まっており、「子供」を相手に話かけたとしてもいつまでたってもその状態に抜け出せず、セラピーがうまく進まない可能性があると思ったからだ。
そこで、彼女に「自分の声に耳を傾け、私と一緒に今のこの場所に来よう」と呼びかけた。私は彼女が26歳であり、大人の女性の体を持っていて、他の人たちと同じ大人であることを言った。彼女はまたもや「いやいや」をしたが、私は今彼女の前におかれている選択肢に目を向けさせ、再度いま現在あるこの場所に私と共に来るよう促した。
彼女は猫背になっていたので私が背筋を伸ばしちゃんと座るように言い、自分を隠さず胸をはるように言うと、彼女は私の言った通りにし、すぐに見た目もさきほどと見違えて良くなった。私は彼女に自分の体の女性である部分—胎盤や子宮など--に息を吹き込むようにと言い、自分が大人の女性であることを体の奥深くから感じとり、周りにいる他の女性を見ながらみな、大人の女性でありその事実によってつながっていることを感じ取るよう促した。
彼女は「難しすぎてできない」と言ったが、私は彼女が今このことをすることによりだんだん変化してきているから大丈夫だ、と彼女を励ました。
それでも彼女は大人の自分をなかなか受け入れることができなかったようだ。私は彼女にもう一度自分の体に思いを集中するように促した。その時だった。彼女は自分には4ヶ月も生理が来ていないことを打ち明けたのだった。それは医学的な理由ではなく、付き合っていた男性と別れるという辛い思いを体験した後からだった。しかしこれははじめてではなく、以前も起こったことだったそうだ。私は彼女の女性である自分は内なるものではなく、外因的要因によって左右されているようだと言うと、彼女は耳を傾けうなずいた。
彼女が私の言葉に心を開いてくれたので、私は彼女の今の状況をはっきりと伝えた。それは、彼女が小さい子供のまま成長を拒んでおり、大人の女性になり、他人の意見に左右されない強くたくましい女性になることを拒んでいることだ、と言った。私は彼女にはっきりと、無力な小さい女の子ではなく、大人の女性としておおいに成長を遂げる彼女を見たいし、そのようになれるよう助けたいと言った。そして、彼女に自分の体に語りかけるよう促した。それは、自分は大人の女性として生きるのだ、ということと大人の女性であること、すなわち女性としての受胎能力と血がからだの中で流れていくことを受け入れ、他人がどう思おうとそれが自分を卑下させることは絶対にしないということ。
私は彼女がもっと多くのことを私から聞くよりも、今聞いて感じ取ったことに思いを馳せて欲しかったので、セラピーを終わらせることにした。彼女のこれからの課題は人に頼るよりも、自分で物事を探って行くということだったからだ。
私は彼女に宿題を出した。それは、携帯のアプリで月の満ち欠けを毎日見ながら自分の体に話しかけ、自分が大人の女性であるということを認識し受け止めることだった。
今回取り扱ったセラピーは「典型的」なゲシュタルト法だった。人間関係やその中で感じるものを実際体験する、という現代的なスタイルのほうが私には合っているが、大人としての決断性、現在あるものに対しての責任と自活力を重点としクライアントを問題に直面させる方法もたまには用いる必要がある。問題に真っ正面から向き合うconfrontative styleは時と場合を間違えたり、やりすぎてしまうこともあるので注意が必要だが、クライアントがこのような言葉を受け入れる準備が出来ている場合はクライアントにとっては警告として必要な場合もある。
長期心理療法では「小さい女の子」でありたい彼女と向き合いそれを探って行く余裕もある。このように「子供のまま」でいることは必ずしも悪い事ではなく時として必要な場合でもあり、ゲシュタルト法ではこれを「想像的調節」と呼んでいる。そうしてこのように「抜け出せない」クライアントと「共に」語り合い、その状態をあるがままで取り扱うことも大切だと私たちは考えている。人々は、誰かに無理矢理抜け出そうとさせられるよりも、私たちの支えと理解、そして「共に」その状況を抜け出すことを求めているのだと私は思う。
ただ、相手を尊重しながら問題と向き合わせることには時と場合を十分にわきまえる必要があり、セラピストとして自分のモチベーションや考え方に深く注意しないといけないことも私は理解している。それは、自分はなぜ相手を問題に直面させようとしているのか、また私自身にとって直面しないといけない問題は何であるかを考える必要があるからだ。これらの考えはクライアントとの相互関係の中で持ち出していくことも可能なのである。それはゲシュタルト法は一方的な相手への思いやりでもなく、ただクライアントに問題直面させることでもなく、本当の意味でクライアントを理解し彼らが変えられる助けをすることだからだ。

2016年6月22日水曜日

Case #78 - 孤独と人間関係

タッドという若い男性は子供の頃7歳から14歳の時に寄宿学校に通わされ、両親には休暇の間の2ヶ月だけ毎年会っていたが、彼が家に帰ってきているわずかな時でも父は仕事が忙しくほとんど家にいなかったと語った。
なので私は彼の父親との関係や孤独感について話をした。彼は暗い所にいることも怖かったそうだ。私は彼に自分の孤独をどう受け止めているかを聞いてみた。彼は一方では自分が一匹狼であり自由でいることを好んでいたが、一方では、孤独による痛みや辛さがあると語った。
宗教が人の心の大きな支えになることもあるので、彼のスピリチュアリティについて聞いてみたところ、何度かヴィバッサナー瞑想のキャンプにも参加したことがあり、自分なりの人生観も持っているが、特に強い宗教への思いというのはなかったので、彼のスピリチュアリティはここではあまり助けにならないことが分かった。もし彼が強い信仰を抱いているものがあるとしたら、私はそれを探っていかなければいけないからだ。
私はさらに、彼が「父親像」として私をどう見ているかを聞いてみた。彼は私といると落ち着くことができ、素直に心を開くことができ、また自分が誰かに支えられていることを感じることができ、ものごとをうまく伝えることができると言った。セラピーの中で彼がそう感じていることは分かっていたが、あえて自分が感じたことを言葉にすることにより、ものごとをより深く体験することができるので、私はそのように促したのだった。
彼は人との関係の中で「孤独感による愛の必要性」が強すぎて、パートナーにとっては重くなってしまう可能性があるということを指摘した。そこで、私は彼がどれくらいその想いが私に対してあるかというのと、グループの中にいる一人一人を見つめながら、自分の心がどう動かされ、孤独な気持ちがどう表面下してくるかを感じ取るよう促した。
私がこうさせたのは、彼が人と触れ合いながら自分の心の変動を意識し、一人一人違う人と会いながら相手に対しどのように自分を表しているかを意識させたかったからだ。
そして、彼が私に何を求めているのかを聞いてみた。それに対し彼は「自分が孤独であることを気づいてもらい、ありのままの自分を愛してもらうこと」と答えた。彼はすでに色々なことを私に打ち明けてくれていたので、彼の経験を探って行くことよりも、今度は私が彼に自分のこと打ち明ける番だと答えた。
私は自分が子供の頃親と離れていたことや大人になっても父親から必要な愛と支えを受けることができなかったことを話した。タッドと似たような経験を語ったのは彼の想いを理解していることを示し、私がそれらのことに対しどう対応したかを伝えたかったからだ。
こうして私たちの心はより深くつながり、強固なものとなっていった。
ゲシュタルト法ではいつも「今、ここに」ということと「私とあなた」に焦点をおいている。というのは、クライアントから与えられたテーマを大きな範囲ではなく、今その人の人生において現在起こっていることを具体的に取り扱うことがゲシュタルト法だからだ。そして、グループセラピーや個人セラピーを通し可能な限りそのテーマ(問題)を探り、体験することである。
今回のクライアントの場合、今後の課題としては彼の「孤独感」という感情を取り扱い、他の人といる時にそれをどう感じるかをより深く探って行くことだと思う。しかしそれと同じくらい大切なのは、彼が「人との触れ合い」を体験し、人に彼の存在を「知って」もらうだけでなく、彼が私をも「知り」、私たちがお互いどのような立ち位置にいるかを人間関係を築いていくなかで知ることである。


2016年5月24日火曜日

Case #77 - 冷静さを保つための「バリア」

トムはある問題に関して「視野を広げることができるよう」助けてほしいと言った。彼は信頼関係の大切さを語り、私なら信頼できる人だと言った。
私ははじめに、彼には心を開きたい部分があるのと同時に人には見せたくない部分もあるだろうという推測を述べた。彼には言わなかったが、彼が自分の気持ちではなく「考え」について語ったことをも心にとめておいた。それはトムの感情を取り扱う上で慎重にすすめていかないということを示していたからだ。
私は更に「信頼」とは彼にとってどのようなものかを聞いた。
それは、心理学上で「信頼性」とは重要なものなのだが、それと同時に「信頼関係」とは人の創造によってある程度作られているものでもあるからである。それはクライアントが自分の期待を「信頼」し、セラピストがどのような人かというイメージを抱き、またある程度自分の体験に関して物事を描いていかないといけないからである。なので、クライアントの言っていることを必ずしも真に受けてしまわないように注意しないといけない。
彼は自分が裏切られた場面についていくつか語ったが、それらはどれもビジネスでのシーンだったので、私と彼との間でいう「信頼関係」とはどのようなものを想像しているのかを説明してもらった。それはゲシュタルト法ではいつも「わたしとあなた」、「今おかれている立場」に焦点をおくようにしているからである。彼は「あなたの人生の決断や心理学者として働いている理由をしりたい」と言ったので、私は自分が今の仕事をしている理由をいくつか挙げた。それらは人に仕えること、効果的なセラピーを行うこと、未解決の心の問題を解決すること、楽しむこと、自分の給与を得ることなど、だと言った。私が今の仕事をする上での決意や考えを包み隠さず話したので、トムは納得してくれた。
私は彼の今抱えている問題について聞くと、元妻のことだと言った。その言葉を発した途端、彼は感情的になってしまった。私はそれをトムに指摘したが、彼は何も言わなかった。
しかし今の状況を説明し、彼らには息子がいる事を話した。彼は家庭を築くためにちょうど良い場所を探そうと頑張っていたのだが、元妻はトムの見つけたところはどこも好まず、また自分からも探そうとしなかった。とうとうトムは怒りがたまり、元妻に「俺たちが一緒に住むためは二人が納得いくところを探さないといけない。色々な候補を探しだしてみて、君の意見も取り入れたいから考えてくれ。」と言ったのだった。しかし彼女は何も答えをださず、彼らはとうとう考えが一致することなく別れてしまった。
更には、彼らが別居し、その後離婚をしてからは、元妻は彼と全く話しをせず、また息子の面倒も見たがらなかった。そのためトムたちは父子家庭になり、彼女は今13歳になる息子を年に何回か訪れるだけだった。
今週末は元妻がくる週だったが、息子は母親に会いたがらなかった。
トムがこれらのことを語っているとき、彼の目には感情があふれていたが、私がこの事を指摘すると彼は必ず「私は今落ち着いています」と言った。
この苦しい状況の中で解決法を探るには、彼の「心の未解決の問題」を取り扱う必要があると指摘した。また、そのためにはトムが自分の気持ちと向き合わないといけないことも指摘した。だが彼はいずれも無口のままだった。私はトムの助けになるかと思い、彼が今感じているであろう感情をいくつか並べてみた。それらは哀しみ、後悔、怒り、いらいら(フラストレーション)などだった。
彼はうなずき、特にいらいら(フラストレーション)を感じていると言ったのでわたしは体のどの部分でそれを感じるかを指すように言った。彼は自分の腹部を指したので、その感情をそのまま保つようにと言ったが、彼はまたもや「落ち着きを取り戻した」と言った。
なので私は彼にもう一度腹部に感じるフラストレーションが具体的にどこにあるかを感じるように言い、彼はある一定の場所でだけ感じると言った。それはあばらの下の部分で、そこから上は「平静」なのだという。
私はこれはゲシュタルト法で呼ばれる「創造的調節」であり、私たちが困難な状況に陥ったとき、圧倒されてしまわないように「冷静さのバリア」を張るのだと説明した。この対策法はその時は有効なのだが、時が経つにつれ、私たちのくせになってしまい、そのうち役立たずになってしまう。ゲシュタルト法ではこれを「抵抗(resistance)」と呼び、私たちが今の状況から目をそらすために用いることがある。これらのものは人間には必要であり役に立つものであるが、もっと意識的に取り扱う必要がある。
私はトムにこれらの事を説明し、かつては彼の「バリア」は有効的だったが、今になっては他の方法で自分自身の気持ちと向き合わないといつまでも未解決のままであると指摘した。また、そのためには彼の協力と彼が以前語った「人生の目的や決意」を知り、彼自身のモチベーションが必要だと言った。
彼はうなずいたが、私の助けが無いとなかなか難しいことは分かった。なので、私は彼に同情を示し、今彼のおかれている状況がどんなにかつらいだろうか、と語りかけた。私は自分自身のつらかった体験を語り、彼が今おかれている状況で様々な強い感情を感じているであろうことを言った。
また元妻の言動からはなぜ彼女がそのように無関心のままであったか理解できなかったので、トム自身の努力も必要だと指摘した。彼も元妻の行動は理解できなかったが、半分あきらめていて、しょうがないのでありのままで受け入れる、と言った。確かに彼が言っていることは正しいが、それでもトムは自分の気持ちをきちんと整理する必要があり、ここの部分は「冷静さのバリア」で守られていない部分であることを指摘した。また、怒りが彼の代わりに息子の中にでてきているということも指摘した。
これらのことを全て述べてから、もう一度自分の腹部に感じる感情を言葉にするように言った。トムは「怒りがある」と言い、私はそれらの感情を何かに例えるように言った。
彼は「肉入り蒸し団子(dumpling)」と言ったので、私はそれを説明するようにお願いした。彼は外側は皮に穴があいていて、中には身が詰まっているさまを語った。中の身は「黒いもの」。それは、彼の感情の中枢となる部分だった。私が彼に「黒い身の部分」に成りすますように言うと、彼は自分の心には「黒いもの」の破片があると語った。
私は彼のこの言葉を聞き、トムとのセラピーは思っていたよりも長くなることが分かったので、彼にそれを伝えた。
こう伝えた後、彼にその「黒い」かけらの部分に意識を集中するように言った。彼はだんだん感情的になり、「でも彼女(元妻)は私の心のこの部分はどうでもいいのだ」と言ったので、私は「いいえ、今わたしはあなたとともにいて、あなたの心の声に耳を傾けています」と答えた。
私たちはしばらくその場でお互いの存在を感じ取った。今回は彼の目に怒りがあらわであるのが分かった。彼はやっと私に自分の感情を見せることができたからだ。
しかしすぐにまた「心が落ち着きました」と言った。
これが彼の創造的調節(creative adjustment)であり、つまり自分が受け止められるだけの感情を感じると同時に自分の怒りと少しずつ向き合いはじめていたのだ。
トムとのセラピーはこのような一連を何度も何度も繰り返し、ゆっくりと彼の心につもった怒りを出して行く必要があると私は分かった。このようにしばらく時間をかける必要がある時もクライアントにそのことを明確に伝えることはとても大切である。私たちは今回のセッションで多くのことを達成したが、まだまだ課題は残っていた。

2016年5月16日月曜日

Case #75 - 自分の想い、人からの期待

ブリジットは18年共にいる夫との間に諍いがあったので、私に会いにきた。それは彼女は両親に一緒に住んで欲しいのに、夫はそれを嫌がったからだった。
そこで私はいつも通りクッションを2つ用意し、一つは彼女に、もう一つは夫に見立てて「会話」をすることにした。
「会話」をすすめていく中で分かったことは彼女は幸せな家庭を築いていて、自分だけが幸せな想いをしているようで、両親に対して罪悪感があること、また両親の気持ちも配慮しないといけないという考えを持っていることだった。
「罪悪感」というものは「ねばならない」という思いが裏に隠れている事が多いので、私は彼女の罪悪感を取り扱うことにした。するとやはり、彼女は「私は両親よりも幸せになってはいけない」という思いを抱いていたのだった。
今度は「ねばならない」という思いを擬人化し、「ねばならない(こうしなければいけない)」と彼女との対話にした。「ねばならない(こうしなければいけない)」という思いはブリジットにお説教をし、両親に対し「良い娘であるべきだ」と言った。そのように言われた彼女は逆切れし、「私が自分の人生をどう歩かを決めつけないで」と言った。
私は彼女に対話を続けるように促した。しかし、彼女はとうとう「ねばならない」に降参してしまい、「分かった、分かった」と言った。だがこれは本当の意味での同意では無かったので、私は彼女に対話を続けるようにいった。
すると彼女は突然5歳の頃のある出来事を思い出したのだ。それは、母親が彼女にご飯を食べさせながら「あなたが大きくなったら今度は私の面倒を見るのよ」と言っていたことだった。私はこのように言われた彼女に対し、5歳の自分では無く43歳の自分として母に答えるよう促した。すると彼女は「私はあなたの娘であって、母親では無いのよ。私があなたの面倒を見ないといけないというのは、なんだかおかしいわ。」と言った。
彼女は母親にはっきりと自分の気持ちを伝えることができた。また、そうする中で彼女の中で何かが変わったのだ。人が物事に対して新しい見方を知り、それを感じ取る具体的な体験をし、「気」の変化が起こるとき、心理学では「統合」と呼ぶ。
ブリジットがはっきりと自分の気持ちを言葉にすることにより、彼女は物事をうまく「消化」し、自分の心の養いになるものだけを受け取り、不要なものは捨て去ることができた。
「ねばならない(こうしなければいけない)」という思いは私たちが社会や両親から受け取った消化しきれない考えなどを指している。それらはある意味正しいことで道徳的価値のあるものだが、人それぞれによって受け取りかたも違う。そのため、その人に合う方法で伝えないといけないのだ。そうでないとそれらの言葉が無意識にも意識的にも圧抑を持つことになり、私たちはそれらの言葉を外からのメッセージやアドバイスとしてではなく、自分の心の中に取り込み、自分を苦しめてしまうことになるのだ。
ゲシュタルト法ではこのような無意識に取り込んでしまった考えを取り扱い、今のクライアントの状況と照らし合わせるようにしている。

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