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2016年8月2日火曜日

Case #81 - 「涙」を「心の叫び」へと変える

ジェーンとのセッションは「攻撃的な面を外に出し、人との関係を円滑にさせる」ためのカウンセリングセッションだった。「攻撃的な面」というのは怒りや憤りなどの強い感情のことを意味している。ゲシュタルト法では「攻撃性」というのは悪いものでは無く、むしろクライアントにとって良いものだと考えられている。それは無意識に取り入れられた考え(「成すべき」と本人が思っていること」)を分解していくために効果的だからだ。
ジェーンはしきりに泣き続けていたので、彼女が今どのような気持ちかを聞いてみると「怒りがある」と答えた。
多くの女性は怒りを納めるように教えられているので、怒りの代わりに涙を流す人がよくいるのだ。しかし「泣く」ということは「無力さ」へと変わるため、本当の解決へはつながらない。
そこで私はジェーンに自分の体と心を一体にするよう促した。まず息を吸った時に鼻からお腹へと移動させ、その後、足全体へと吸った息を移動させていくように言った。私は彼女のエネルギーが体の下から上へと移動しているのが見えた。彼女の怒りはどんどん上へと体の中をのぼり、目へと、そして涙へと変えられて行ったのだ。そのため彼女に自分の足をしっかりと地につけ、エネルギーを上から下へと受け流して欲しかった。
まずは足踏みをするように言った。彼女は最初は体が硬直し、なかなかできなかった。私は彼女を支え、呼吸を先ほど言った通りしっかりするように促し、彼女が安全な場所で怒りをしっかりと表に表すことができるよう支え続けた。このようにクライアントが心の奥底にたまっているものをしっかりと表に出すことができるよう支えるのもセラピストの役目の一つだ。
彼女が「地に足をつける」ことを促していくなかで、もう一度足踏みをするようにと言った。彼女ははじめはなかなかできなかったが、ようやく静かに足踏みをした。私は彼女に自分の怒りを感じ取り、それをふくらはぎから足の先へと受け流していくように促した。
また彼女の足踏みを強くさせることにより、彼女のなかにある「攻撃的な一面」を受け止めるよう促した。そして、足踏みに音を加えた。私は彼女と向かい合い彼女と同じ強さで足踏みをした。それは、ありのままの彼女を受け止めてくれる人がいる、ということを彼女が感じることができるようにだった。
これこそがゲシュタルト体験なのだ。それは私たちの選択肢と度量を広げて行くために、問題について「語り合う」ことから、自分の「おかしな」行動を探っていくことである。今回のようなセッションではセラピストのサポートを多いに必要としており、クライアントとのアクティビティもクライアントが本当に必要としている根本的な問題を探るものでないといけない。



2016年7月27日水曜日

Case #80 - 子供のままの女性

ダイアンは体は小さかったがネルギッシュな若い女性だった。彼女の話し方は「小さい女の子」のようで、よく口をとがらせて話した。
彼女はグループセラピーに来ても「自分が求めているものはここにはない」と言い、「もう全部前に聞いたことだ」や「私はもう知っているわ」などと言った。
これらの言葉以外にも彼女の行動は子供が駄々をこねているようだった。彼女に自分の年齢をいくつに感じるかと聞くと、5歳、と彼女は言った。
「年齢を逆戻り」した人へは相手の精神年齢に合わせセラピーを行うこともあるが、そのような問題は長期的なセラピーを必要としており、必ずしもクライアントにあてはまるとは限らない。
なので私はダイアンの「現在の自分」を取り扱うことにした。「現在」に焦点をおくことにより、物事を今の状況を考えながら判断していき、しっかりと根付いた現実性を保つことができる。私がそのように判断した理由は、ダイアンが「小さい女の子」視点に凝り固まっており、「子供」を相手に話かけたとしてもいつまでたってもその状態に抜け出せず、セラピーがうまく進まない可能性があると思ったからだ。
そこで、彼女に「自分の声に耳を傾け、私と一緒に今のこの場所に来よう」と呼びかけた。私は彼女が26歳であり、大人の女性の体を持っていて、他の人たちと同じ大人であることを言った。彼女はまたもや「いやいや」をしたが、私は今彼女の前におかれている選択肢に目を向けさせ、再度いま現在あるこの場所に私と共に来るよう促した。
彼女は猫背になっていたので私が背筋を伸ばしちゃんと座るように言い、自分を隠さず胸をはるように言うと、彼女は私の言った通りにし、すぐに見た目もさきほどと見違えて良くなった。私は彼女に自分の体の女性である部分—胎盤や子宮など--に息を吹き込むようにと言い、自分が大人の女性であることを体の奥深くから感じとり、周りにいる他の女性を見ながらみな、大人の女性でありその事実によってつながっていることを感じ取るよう促した。
彼女は「難しすぎてできない」と言ったが、私は彼女が今このことをすることによりだんだん変化してきているから大丈夫だ、と彼女を励ました。
それでも彼女は大人の自分をなかなか受け入れることができなかったようだ。私は彼女にもう一度自分の体に思いを集中するように促した。その時だった。彼女は自分には4ヶ月も生理が来ていないことを打ち明けたのだった。それは医学的な理由ではなく、付き合っていた男性と別れるという辛い思いを体験した後からだった。しかしこれははじめてではなく、以前も起こったことだったそうだ。私は彼女の女性である自分は内なるものではなく、外因的要因によって左右されているようだと言うと、彼女は耳を傾けうなずいた。
彼女が私の言葉に心を開いてくれたので、私は彼女の今の状況をはっきりと伝えた。それは、彼女が小さい子供のまま成長を拒んでおり、大人の女性になり、他人の意見に左右されない強くたくましい女性になることを拒んでいることだ、と言った。私は彼女にはっきりと、無力な小さい女の子ではなく、大人の女性としておおいに成長を遂げる彼女を見たいし、そのようになれるよう助けたいと言った。そして、彼女に自分の体に語りかけるよう促した。それは、自分は大人の女性として生きるのだ、ということと大人の女性であること、すなわち女性としての受胎能力と血がからだの中で流れていくことを受け入れ、他人がどう思おうとそれが自分を卑下させることは絶対にしないということ。
私は彼女がもっと多くのことを私から聞くよりも、今聞いて感じ取ったことに思いを馳せて欲しかったので、セラピーを終わらせることにした。彼女のこれからの課題は人に頼るよりも、自分で物事を探って行くということだったからだ。
私は彼女に宿題を出した。それは、携帯のアプリで月の満ち欠けを毎日見ながら自分の体に話しかけ、自分が大人の女性であるということを認識し受け止めることだった。
今回取り扱ったセラピーは「典型的」なゲシュタルト法だった。人間関係やその中で感じるものを実際体験する、という現代的なスタイルのほうが私には合っているが、大人としての決断性、現在あるものに対しての責任と自活力を重点としクライアントを問題に直面させる方法もたまには用いる必要がある。問題に真っ正面から向き合うconfrontative styleは時と場合を間違えたり、やりすぎてしまうこともあるので注意が必要だが、クライアントがこのような言葉を受け入れる準備が出来ている場合はクライアントにとっては警告として必要な場合もある。
長期心理療法では「小さい女の子」でありたい彼女と向き合いそれを探って行く余裕もある。このように「子供のまま」でいることは必ずしも悪い事ではなく時として必要な場合でもあり、ゲシュタルト法ではこれを「想像的調節」と呼んでいる。そうしてこのように「抜け出せない」クライアントと「共に」語り合い、その状態をあるがままで取り扱うことも大切だと私たちは考えている。人々は、誰かに無理矢理抜け出そうとさせられるよりも、私たちの支えと理解、そして「共に」その状況を抜け出すことを求めているのだと私は思う。
ただ、相手を尊重しながら問題と向き合わせることには時と場合を十分にわきまえる必要があり、セラピストとして自分のモチベーションや考え方に深く注意しないといけないことも私は理解している。それは、自分はなぜ相手を問題に直面させようとしているのか、また私自身にとって直面しないといけない問題は何であるかを考える必要があるからだ。これらの考えはクライアントとの相互関係の中で持ち出していくことも可能なのである。それはゲシュタルト法は一方的な相手への思いやりでもなく、ただクライアントに問題直面させることでもなく、本当の意味でクライアントを理解し彼らが変えられる助けをすることだからだ。

2016年6月22日水曜日

Case #78 - 孤独と人間関係

タッドという若い男性は子供の頃7歳から14歳の時に寄宿学校に通わされ、両親には休暇の間の2ヶ月だけ毎年会っていたが、彼が家に帰ってきているわずかな時でも父は仕事が忙しくほとんど家にいなかったと語った。
なので私は彼の父親との関係や孤独感について話をした。彼は暗い所にいることも怖かったそうだ。私は彼に自分の孤独をどう受け止めているかを聞いてみた。彼は一方では自分が一匹狼であり自由でいることを好んでいたが、一方では、孤独による痛みや辛さがあると語った。
宗教が人の心の大きな支えになることもあるので、彼のスピリチュアリティについて聞いてみたところ、何度かヴィバッサナー瞑想のキャンプにも参加したことがあり、自分なりの人生観も持っているが、特に強い宗教への思いというのはなかったので、彼のスピリチュアリティはここではあまり助けにならないことが分かった。もし彼が強い信仰を抱いているものがあるとしたら、私はそれを探っていかなければいけないからだ。
私はさらに、彼が「父親像」として私をどう見ているかを聞いてみた。彼は私といると落ち着くことができ、素直に心を開くことができ、また自分が誰かに支えられていることを感じることができ、ものごとをうまく伝えることができると言った。セラピーの中で彼がそう感じていることは分かっていたが、あえて自分が感じたことを言葉にすることにより、ものごとをより深く体験することができるので、私はそのように促したのだった。
彼は人との関係の中で「孤独感による愛の必要性」が強すぎて、パートナーにとっては重くなってしまう可能性があるということを指摘した。そこで、私は彼がどれくらいその想いが私に対してあるかというのと、グループの中にいる一人一人を見つめながら、自分の心がどう動かされ、孤独な気持ちがどう表面下してくるかを感じ取るよう促した。
私がこうさせたのは、彼が人と触れ合いながら自分の心の変動を意識し、一人一人違う人と会いながら相手に対しどのように自分を表しているかを意識させたかったからだ。
そして、彼が私に何を求めているのかを聞いてみた。それに対し彼は「自分が孤独であることを気づいてもらい、ありのままの自分を愛してもらうこと」と答えた。彼はすでに色々なことを私に打ち明けてくれていたので、彼の経験を探って行くことよりも、今度は私が彼に自分のこと打ち明ける番だと答えた。
私は自分が子供の頃親と離れていたことや大人になっても父親から必要な愛と支えを受けることができなかったことを話した。タッドと似たような経験を語ったのは彼の想いを理解していることを示し、私がそれらのことに対しどう対応したかを伝えたかったからだ。
こうして私たちの心はより深くつながり、強固なものとなっていった。
ゲシュタルト法ではいつも「今、ここに」ということと「私とあなた」に焦点をおいている。というのは、クライアントから与えられたテーマを大きな範囲ではなく、今その人の人生において現在起こっていることを具体的に取り扱うことがゲシュタルト法だからだ。そして、グループセラピーや個人セラピーを通し可能な限りそのテーマ(問題)を探り、体験することである。
今回のクライアントの場合、今後の課題としては彼の「孤独感」という感情を取り扱い、他の人といる時にそれをどう感じるかをより深く探って行くことだと思う。しかしそれと同じくらい大切なのは、彼が「人との触れ合い」を体験し、人に彼の存在を「知って」もらうだけでなく、彼が私をも「知り」、私たちがお互いどのような立ち位置にいるかを人間関係を築いていくなかで知ることである。


2016年5月24日火曜日

Case #77 - 冷静さを保つための「バリア」

トムはある問題に関して「視野を広げることができるよう」助けてほしいと言った。彼は信頼関係の大切さを語り、私なら信頼できる人だと言った。
私ははじめに、彼には心を開きたい部分があるのと同時に人には見せたくない部分もあるだろうという推測を述べた。彼には言わなかったが、彼が自分の気持ちではなく「考え」について語ったことをも心にとめておいた。それはトムの感情を取り扱う上で慎重にすすめていかないということを示していたからだ。
私は更に「信頼」とは彼にとってどのようなものかを聞いた。
それは、心理学上で「信頼性」とは重要なものなのだが、それと同時に「信頼関係」とは人の創造によってある程度作られているものでもあるからである。それはクライアントが自分の期待を「信頼」し、セラピストがどのような人かというイメージを抱き、またある程度自分の体験に関して物事を描いていかないといけないからである。なので、クライアントの言っていることを必ずしも真に受けてしまわないように注意しないといけない。
彼は自分が裏切られた場面についていくつか語ったが、それらはどれもビジネスでのシーンだったので、私と彼との間でいう「信頼関係」とはどのようなものを想像しているのかを説明してもらった。それはゲシュタルト法ではいつも「わたしとあなた」、「今おかれている立場」に焦点をおくようにしているからである。彼は「あなたの人生の決断や心理学者として働いている理由をしりたい」と言ったので、私は自分が今の仕事をしている理由をいくつか挙げた。それらは人に仕えること、効果的なセラピーを行うこと、未解決の心の問題を解決すること、楽しむこと、自分の給与を得ることなど、だと言った。私が今の仕事をする上での決意や考えを包み隠さず話したので、トムは納得してくれた。
私は彼の今抱えている問題について聞くと、元妻のことだと言った。その言葉を発した途端、彼は感情的になってしまった。私はそれをトムに指摘したが、彼は何も言わなかった。
しかし今の状況を説明し、彼らには息子がいる事を話した。彼は家庭を築くためにちょうど良い場所を探そうと頑張っていたのだが、元妻はトムの見つけたところはどこも好まず、また自分からも探そうとしなかった。とうとうトムは怒りがたまり、元妻に「俺たちが一緒に住むためは二人が納得いくところを探さないといけない。色々な候補を探しだしてみて、君の意見も取り入れたいから考えてくれ。」と言ったのだった。しかし彼女は何も答えをださず、彼らはとうとう考えが一致することなく別れてしまった。
更には、彼らが別居し、その後離婚をしてからは、元妻は彼と全く話しをせず、また息子の面倒も見たがらなかった。そのためトムたちは父子家庭になり、彼女は今13歳になる息子を年に何回か訪れるだけだった。
今週末は元妻がくる週だったが、息子は母親に会いたがらなかった。
トムがこれらのことを語っているとき、彼の目には感情があふれていたが、私がこの事を指摘すると彼は必ず「私は今落ち着いています」と言った。
この苦しい状況の中で解決法を探るには、彼の「心の未解決の問題」を取り扱う必要があると指摘した。また、そのためにはトムが自分の気持ちと向き合わないといけないことも指摘した。だが彼はいずれも無口のままだった。私はトムの助けになるかと思い、彼が今感じているであろう感情をいくつか並べてみた。それらは哀しみ、後悔、怒り、いらいら(フラストレーション)などだった。
彼はうなずき、特にいらいら(フラストレーション)を感じていると言ったのでわたしは体のどの部分でそれを感じるかを指すように言った。彼は自分の腹部を指したので、その感情をそのまま保つようにと言ったが、彼はまたもや「落ち着きを取り戻した」と言った。
なので私は彼にもう一度腹部に感じるフラストレーションが具体的にどこにあるかを感じるように言い、彼はある一定の場所でだけ感じると言った。それはあばらの下の部分で、そこから上は「平静」なのだという。
私はこれはゲシュタルト法で呼ばれる「創造的調節」であり、私たちが困難な状況に陥ったとき、圧倒されてしまわないように「冷静さのバリア」を張るのだと説明した。この対策法はその時は有効なのだが、時が経つにつれ、私たちのくせになってしまい、そのうち役立たずになってしまう。ゲシュタルト法ではこれを「抵抗(resistance)」と呼び、私たちが今の状況から目をそらすために用いることがある。これらのものは人間には必要であり役に立つものであるが、もっと意識的に取り扱う必要がある。
私はトムにこれらの事を説明し、かつては彼の「バリア」は有効的だったが、今になっては他の方法で自分自身の気持ちと向き合わないといつまでも未解決のままであると指摘した。また、そのためには彼の協力と彼が以前語った「人生の目的や決意」を知り、彼自身のモチベーションが必要だと言った。
彼はうなずいたが、私の助けが無いとなかなか難しいことは分かった。なので、私は彼に同情を示し、今彼のおかれている状況がどんなにかつらいだろうか、と語りかけた。私は自分自身のつらかった体験を語り、彼が今おかれている状況で様々な強い感情を感じているであろうことを言った。
また元妻の言動からはなぜ彼女がそのように無関心のままであったか理解できなかったので、トム自身の努力も必要だと指摘した。彼も元妻の行動は理解できなかったが、半分あきらめていて、しょうがないのでありのままで受け入れる、と言った。確かに彼が言っていることは正しいが、それでもトムは自分の気持ちをきちんと整理する必要があり、ここの部分は「冷静さのバリア」で守られていない部分であることを指摘した。また、怒りが彼の代わりに息子の中にでてきているということも指摘した。
これらのことを全て述べてから、もう一度自分の腹部に感じる感情を言葉にするように言った。トムは「怒りがある」と言い、私はそれらの感情を何かに例えるように言った。
彼は「肉入り蒸し団子(dumpling)」と言ったので、私はそれを説明するようにお願いした。彼は外側は皮に穴があいていて、中には身が詰まっているさまを語った。中の身は「黒いもの」。それは、彼の感情の中枢となる部分だった。私が彼に「黒い身の部分」に成りすますように言うと、彼は自分の心には「黒いもの」の破片があると語った。
私は彼のこの言葉を聞き、トムとのセラピーは思っていたよりも長くなることが分かったので、彼にそれを伝えた。
こう伝えた後、彼にその「黒い」かけらの部分に意識を集中するように言った。彼はだんだん感情的になり、「でも彼女(元妻)は私の心のこの部分はどうでもいいのだ」と言ったので、私は「いいえ、今わたしはあなたとともにいて、あなたの心の声に耳を傾けています」と答えた。
私たちはしばらくその場でお互いの存在を感じ取った。今回は彼の目に怒りがあらわであるのが分かった。彼はやっと私に自分の感情を見せることができたからだ。
しかしすぐにまた「心が落ち着きました」と言った。
これが彼の創造的調節(creative adjustment)であり、つまり自分が受け止められるだけの感情を感じると同時に自分の怒りと少しずつ向き合いはじめていたのだ。
トムとのセラピーはこのような一連を何度も何度も繰り返し、ゆっくりと彼の心につもった怒りを出して行く必要があると私は分かった。このようにしばらく時間をかける必要がある時もクライアントにそのことを明確に伝えることはとても大切である。私たちは今回のセッションで多くのことを達成したが、まだまだ課題は残っていた。

2016年5月16日月曜日

Case #75 - 自分の想い、人からの期待

ブリジットは18年共にいる夫との間に諍いがあったので、私に会いにきた。それは彼女は両親に一緒に住んで欲しいのに、夫はそれを嫌がったからだった。
そこで私はいつも通りクッションを2つ用意し、一つは彼女に、もう一つは夫に見立てて「会話」をすることにした。
「会話」をすすめていく中で分かったことは彼女は幸せな家庭を築いていて、自分だけが幸せな想いをしているようで、両親に対して罪悪感があること、また両親の気持ちも配慮しないといけないという考えを持っていることだった。
「罪悪感」というものは「ねばならない」という思いが裏に隠れている事が多いので、私は彼女の罪悪感を取り扱うことにした。するとやはり、彼女は「私は両親よりも幸せになってはいけない」という思いを抱いていたのだった。
今度は「ねばならない」という思いを擬人化し、「ねばならない(こうしなければいけない)」と彼女との対話にした。「ねばならない(こうしなければいけない)」という思いはブリジットにお説教をし、両親に対し「良い娘であるべきだ」と言った。そのように言われた彼女は逆切れし、「私が自分の人生をどう歩かを決めつけないで」と言った。
私は彼女に対話を続けるように促した。しかし、彼女はとうとう「ねばならない」に降参してしまい、「分かった、分かった」と言った。だがこれは本当の意味での同意では無かったので、私は彼女に対話を続けるようにいった。
すると彼女は突然5歳の頃のある出来事を思い出したのだ。それは、母親が彼女にご飯を食べさせながら「あなたが大きくなったら今度は私の面倒を見るのよ」と言っていたことだった。私はこのように言われた彼女に対し、5歳の自分では無く43歳の自分として母に答えるよう促した。すると彼女は「私はあなたの娘であって、母親では無いのよ。私があなたの面倒を見ないといけないというのは、なんだかおかしいわ。」と言った。
彼女は母親にはっきりと自分の気持ちを伝えることができた。また、そうする中で彼女の中で何かが変わったのだ。人が物事に対して新しい見方を知り、それを感じ取る具体的な体験をし、「気」の変化が起こるとき、心理学では「統合」と呼ぶ。
ブリジットがはっきりと自分の気持ちを言葉にすることにより、彼女は物事をうまく「消化」し、自分の心の養いになるものだけを受け取り、不要なものは捨て去ることができた。
「ねばならない(こうしなければいけない)」という思いは私たちが社会や両親から受け取った消化しきれない考えなどを指している。それらはある意味正しいことで道徳的価値のあるものだが、人それぞれによって受け取りかたも違う。そのため、その人に合う方法で伝えないといけないのだ。そうでないとそれらの言葉が無意識にも意識的にも圧抑を持つことになり、私たちはそれらの言葉を外からのメッセージやアドバイスとしてではなく、自分の心の中に取り込み、自分を苦しめてしまうことになるのだ。
ゲシュタルト法ではこのような無意識に取り込んでしまった考えを取り扱い、今のクライアントの状況と照らし合わせるようにしている。

2016年5月8日日曜日

Case #74 - 癒しの手を受け入れる

私はアナベルが自分の人生や人間関係について詳しく語ってくれて非常に助かっていることを話した。私たちはお互い相手の話を聞く事ができ、お互いの価値観を共有することのできる場を私は提供するようにした。なので私はカウンセラーという立場はおいて、自分も色々なことを打ち明け、自分の価値観と行動、他の人に対しての気持ちや相手に何かをしてあげることの中で自分がどう思うか、また自分自身の必要や自分ができることに限りがあることなども話した。
アナベルは自分が相手に何かをしてあげることは容易にできるのだが、誰かに何かをしてもらうことはなかなか受け入れにくいと言った。更には、食すことにおいても楽しみをあまり感じなく、いつも無理して食べているということも話してくれた。
まず、彼女が話した「食べ物の問題」は心理学的には大きな問題を抱えていることを表しているが(食べ物というのは子供の頃の家族関係やまわりの人との関係を表している)今は心理治療関係にフォーカスしたかった。
そこで彼女が誰かからの「養い」を受け入れることのできるアクティビティを考えてみた。
私たちは手を取り、彼女の手をゆっくりとなでてあげた。彼女は同じ動作を私にもし始めたが、それは「受け入れる」ことよりも「相手になにかをしてあげる」という好意になっていたので、私は彼女をとめた。私はこのことを通し彼女が人から愛情と養いを受け入れることができるかを見てみたかった。しかし、彼女はなかなかそれを受け入れることができず、腕がかたく、まるで硬直しているかのようだと言った。また彼女は唇をかみ、私が差し出している「癒し」を拒んでいるようだった。
なので彼女の手を取ったままの状態で彼女の腕をゆっくりと上にあげ、動かした。彼女の腕をゆっくりと回しながら、体の力を抜き、リラックスをして、私に身を任せるようにと言った。しかし彼女はなかなかリラックスすることができず、私の手をしっかりと握り私が彼女の腕を動かす動きに合わせて自分でも腕を動かしてしまった。
私たちがこの一連の動作をする中で、彼女は少しだけリラックスし私に身を任せることができたが、なかなか私に「完全に頼り切る」ことができなかった。
なので私は宿題として他の誰かとこのアクティビティをするように課題を出した。
またこれからのカウンセリングで必要になってくるものは様々なことがあるが、特に彼女が他の人に頼ることができないことや「食」というものが成長して行く中でどのように彼女に影響を与えたかを知る必要がある。
ゲシュタルト法では「壁」にあたった時、それを押し倒していくのではなく、その「壁」があることを認識しそれを受け入れるようにしている。また創造的調整(creative adjustment)をもたらした環境や理由を探るため、家族関係など全体的なことを見る様にしている。そして「創造的調節」を受け入れ、理解し、肯定的に扱うようにしている。こうすることにより、私はアナベルがなぜそこまで物事を手放すのを恐れているのかをよりしり、彼女が手放すことで何を失うことを恐れているのかを知ることができる。おそらく、彼女の家族関係の中では「信頼」や「(人への)委ね」は良い結果をもたらすものではなかったのだろう。
このような背景があるため、今後のセラピーでもゆっくり、彼女のペースに合わせて行く様十分注意しないといけない。彼女が「癒し」を受け入れることができるよう、一歩一歩すすめていかないといけないのだ。
また、セラピーで実際に食べ物を使うこともできる。例えば、切ったりんごを用意し、りんごを食べる一つ一つの動作を通してどのように感じるかを考えるアクティビティなども効果的だと思う。ゲシュタルト法では「何かをすることに漠然とついて話す」ことよりも実際にそれをやってみて、その行動を通して自分がどう感じるかを認識することに焦点をおいている。

2016年5月1日日曜日

Case #73 - 相手を通して自分の気持ちをしる

マルタはカウンセラーだったが、とても理性的な人で、自分自身の気持ちを理解することがなかなかできないと嘆いていた。
私は、まず今ここにいること、こうして会うことにより何を感じるかにフォーカスすることにした。それは具体的には、今こうして私と会うことにより何を感じるか、私たちの「触れ合い」は彼女にとってどのようなものであるかという質問だった。私は彼女に質問するごとに自分の気持ちも話した。
次に部屋を見渡しながら一人一人の人を見て、人それぞれによって自分が違う感情を抱いているのだということを感じ取るよう彼女に促した。
そして最後に、私自身が「カウンセラー」という立場から「クライアント」へと切り替えた。彼女は私の感情にすぐ気がつき、「あぁ、あなたは哀しいのね。」と言った。私は大切なことは彼女自身の気持ちであると指摘した。それは彼女自身が自分の「哀しみ」を体験することだった。まず自分がどのような感情を抱いているのかを知ってから、私がどうして「哀しい」のかを聞く様促した。今回、私が「哀しみ」を感じていると指摘した彼女は当たってはいたが、このようにすぐに思い込みをしてしまわないよう注意しないといけない。人は「自分は相手の気持ちを察する事ができる」と勝手に思い込んでしまっている時がある。ゲシュタルト法ではこのような考え方ではなく、必ず境界線を引き、まず自分自身の感情に敏感であることを促している。私たちは相手の気持ちを察し、それが当たっているか相手に聞かないといけない。相手の気持ちを「知っている」、「分かっている」という考えは相手に対して失礼であり、また相手のためにもならない。
もっと心理学的な用語を用いるとしたら、このことを「投影」と呼ぶ。私たちが相手の気持ちを100%分かりきることはできない。それは相手の気持ちは相手の心と体の中にあり、私たちは相手の心を持っているわけでは無いからだ。もしかすると私たちの感情は相手のものと一致するかもしれないが、それはあくまでも私たち自身のものである。
そのため、「投影」というのは私たちが自分の感情を道しるべとしながら、相手の気持ちを想像するというものだ。こうすることにより、私たちはこの世の中に順応していくことができ、他人の気持ちを理解し、(願わくば)相手と同じことを感じることができるのである。しかし、まず相手の気持ちを確認せずには自分の「察したこと」が合っていたかどうかは分からない。
ゲシュタルト法ではこのような会話の中で相手の気持ちを伺い、コミュニケーションをとり、自分が相手のことを正しく理解していたか確認するために正確な言葉を用いることが重視されている。私たちが相手とうまくコミュニケーションをとることにより、あいまいで僭越したもではなく、はっきりと相手の思いを理解することができる。

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