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2016年5月16日月曜日

Case #75 - 自分の想い、人からの期待

ブリジットは18年共にいる夫との間に諍いがあったので、私に会いにきた。それは彼女は両親に一緒に住んで欲しいのに、夫はそれを嫌がったからだった。
そこで私はいつも通りクッションを2つ用意し、一つは彼女に、もう一つは夫に見立てて「会話」をすることにした。
「会話」をすすめていく中で分かったことは彼女は幸せな家庭を築いていて、自分だけが幸せな想いをしているようで、両親に対して罪悪感があること、また両親の気持ちも配慮しないといけないという考えを持っていることだった。
「罪悪感」というものは「ねばならない」という思いが裏に隠れている事が多いので、私は彼女の罪悪感を取り扱うことにした。するとやはり、彼女は「私は両親よりも幸せになってはいけない」という思いを抱いていたのだった。
今度は「ねばならない」という思いを擬人化し、「ねばならない(こうしなければいけない)」と彼女との対話にした。「ねばならない(こうしなければいけない)」という思いはブリジットにお説教をし、両親に対し「良い娘であるべきだ」と言った。そのように言われた彼女は逆切れし、「私が自分の人生をどう歩かを決めつけないで」と言った。
私は彼女に対話を続けるように促した。しかし、彼女はとうとう「ねばならない」に降参してしまい、「分かった、分かった」と言った。だがこれは本当の意味での同意では無かったので、私は彼女に対話を続けるようにいった。
すると彼女は突然5歳の頃のある出来事を思い出したのだ。それは、母親が彼女にご飯を食べさせながら「あなたが大きくなったら今度は私の面倒を見るのよ」と言っていたことだった。私はこのように言われた彼女に対し、5歳の自分では無く43歳の自分として母に答えるよう促した。すると彼女は「私はあなたの娘であって、母親では無いのよ。私があなたの面倒を見ないといけないというのは、なんだかおかしいわ。」と言った。
彼女は母親にはっきりと自分の気持ちを伝えることができた。また、そうする中で彼女の中で何かが変わったのだ。人が物事に対して新しい見方を知り、それを感じ取る具体的な体験をし、「気」の変化が起こるとき、心理学では「統合」と呼ぶ。
ブリジットがはっきりと自分の気持ちを言葉にすることにより、彼女は物事をうまく「消化」し、自分の心の養いになるものだけを受け取り、不要なものは捨て去ることができた。
「ねばならない(こうしなければいけない)」という思いは私たちが社会や両親から受け取った消化しきれない考えなどを指している。それらはある意味正しいことで道徳的価値のあるものだが、人それぞれによって受け取りかたも違う。そのため、その人に合う方法で伝えないといけないのだ。そうでないとそれらの言葉が無意識にも意識的にも圧抑を持つことになり、私たちはそれらの言葉を外からのメッセージやアドバイスとしてではなく、自分の心の中に取り込み、自分を苦しめてしまうことになるのだ。
ゲシュタルト法ではこのような無意識に取り込んでしまった考えを取り扱い、今のクライアントの状況と照らし合わせるようにしている。

2016年5月8日日曜日

Case #74 - 癒しの手を受け入れる

私はアナベルが自分の人生や人間関係について詳しく語ってくれて非常に助かっていることを話した。私たちはお互い相手の話を聞く事ができ、お互いの価値観を共有することのできる場を私は提供するようにした。なので私はカウンセラーという立場はおいて、自分も色々なことを打ち明け、自分の価値観と行動、他の人に対しての気持ちや相手に何かをしてあげることの中で自分がどう思うか、また自分自身の必要や自分ができることに限りがあることなども話した。
アナベルは自分が相手に何かをしてあげることは容易にできるのだが、誰かに何かをしてもらうことはなかなか受け入れにくいと言った。更には、食すことにおいても楽しみをあまり感じなく、いつも無理して食べているということも話してくれた。
まず、彼女が話した「食べ物の問題」は心理学的には大きな問題を抱えていることを表しているが(食べ物というのは子供の頃の家族関係やまわりの人との関係を表している)今は心理治療関係にフォーカスしたかった。
そこで彼女が誰かからの「養い」を受け入れることのできるアクティビティを考えてみた。
私たちは手を取り、彼女の手をゆっくりとなでてあげた。彼女は同じ動作を私にもし始めたが、それは「受け入れる」ことよりも「相手になにかをしてあげる」という好意になっていたので、私は彼女をとめた。私はこのことを通し彼女が人から愛情と養いを受け入れることができるかを見てみたかった。しかし、彼女はなかなかそれを受け入れることができず、腕がかたく、まるで硬直しているかのようだと言った。また彼女は唇をかみ、私が差し出している「癒し」を拒んでいるようだった。
なので彼女の手を取ったままの状態で彼女の腕をゆっくりと上にあげ、動かした。彼女の腕をゆっくりと回しながら、体の力を抜き、リラックスをして、私に身を任せるようにと言った。しかし彼女はなかなかリラックスすることができず、私の手をしっかりと握り私が彼女の腕を動かす動きに合わせて自分でも腕を動かしてしまった。
私たちがこの一連の動作をする中で、彼女は少しだけリラックスし私に身を任せることができたが、なかなか私に「完全に頼り切る」ことができなかった。
なので私は宿題として他の誰かとこのアクティビティをするように課題を出した。
またこれからのカウンセリングで必要になってくるものは様々なことがあるが、特に彼女が他の人に頼ることができないことや「食」というものが成長して行く中でどのように彼女に影響を与えたかを知る必要がある。
ゲシュタルト法では「壁」にあたった時、それを押し倒していくのではなく、その「壁」があることを認識しそれを受け入れるようにしている。また創造的調整(creative adjustment)をもたらした環境や理由を探るため、家族関係など全体的なことを見る様にしている。そして「創造的調節」を受け入れ、理解し、肯定的に扱うようにしている。こうすることにより、私はアナベルがなぜそこまで物事を手放すのを恐れているのかをよりしり、彼女が手放すことで何を失うことを恐れているのかを知ることができる。おそらく、彼女の家族関係の中では「信頼」や「(人への)委ね」は良い結果をもたらすものではなかったのだろう。
このような背景があるため、今後のセラピーでもゆっくり、彼女のペースに合わせて行く様十分注意しないといけない。彼女が「癒し」を受け入れることができるよう、一歩一歩すすめていかないといけないのだ。
また、セラピーで実際に食べ物を使うこともできる。例えば、切ったりんごを用意し、りんごを食べる一つ一つの動作を通してどのように感じるかを考えるアクティビティなども効果的だと思う。ゲシュタルト法では「何かをすることに漠然とついて話す」ことよりも実際にそれをやってみて、その行動を通して自分がどう感じるかを認識することに焦点をおいている。

2016年5月1日日曜日

Case #73 - 相手を通して自分の気持ちをしる

マルタはカウンセラーだったが、とても理性的な人で、自分自身の気持ちを理解することがなかなかできないと嘆いていた。
私は、まず今ここにいること、こうして会うことにより何を感じるかにフォーカスすることにした。それは具体的には、今こうして私と会うことにより何を感じるか、私たちの「触れ合い」は彼女にとってどのようなものであるかという質問だった。私は彼女に質問するごとに自分の気持ちも話した。
次に部屋を見渡しながら一人一人の人を見て、人それぞれによって自分が違う感情を抱いているのだということを感じ取るよう彼女に促した。
そして最後に、私自身が「カウンセラー」という立場から「クライアント」へと切り替えた。彼女は私の感情にすぐ気がつき、「あぁ、あなたは哀しいのね。」と言った。私は大切なことは彼女自身の気持ちであると指摘した。それは彼女自身が自分の「哀しみ」を体験することだった。まず自分がどのような感情を抱いているのかを知ってから、私がどうして「哀しい」のかを聞く様促した。今回、私が「哀しみ」を感じていると指摘した彼女は当たってはいたが、このようにすぐに思い込みをしてしまわないよう注意しないといけない。人は「自分は相手の気持ちを察する事ができる」と勝手に思い込んでしまっている時がある。ゲシュタルト法ではこのような考え方ではなく、必ず境界線を引き、まず自分自身の感情に敏感であることを促している。私たちは相手の気持ちを察し、それが当たっているか相手に聞かないといけない。相手の気持ちを「知っている」、「分かっている」という考えは相手に対して失礼であり、また相手のためにもならない。
もっと心理学的な用語を用いるとしたら、このことを「投影」と呼ぶ。私たちが相手の気持ちを100%分かりきることはできない。それは相手の気持ちは相手の心と体の中にあり、私たちは相手の心を持っているわけでは無いからだ。もしかすると私たちの感情は相手のものと一致するかもしれないが、それはあくまでも私たち自身のものである。
そのため、「投影」というのは私たちが自分の感情を道しるべとしながら、相手の気持ちを想像するというものだ。こうすることにより、私たちはこの世の中に順応していくことができ、他人の気持ちを理解し、(願わくば)相手と同じことを感じることができるのである。しかし、まず相手の気持ちを確認せずには自分の「察したこと」が合っていたかどうかは分からない。
ゲシュタルト法ではこのような会話の中で相手の気持ちを伺い、コミュニケーションをとり、自分が相手のことを正しく理解していたか確認するために正確な言葉を用いることが重視されている。私たちが相手とうまくコミュニケーションをとることにより、あいまいで僭越したもではなく、はっきりと相手の思いを理解することができる。

2016年4月16日土曜日

Case #72 - 痛みに対しての解毒剤

サマンサはビジネスウーマンとして成功していた。でも、なかなか生涯のパートナーを見つけることができなかった。彼女は、自分はビジネスを頑張るか、パートナーを探すか、どちらかひとつにしか集中できないという問題を抱えていた。
彼女はこのことでとても苦しんでおり、とてもみじめな思いをしていると言った。彼女はなかなか良い男性に出会うことができなかった。
彼女の話を聞けば聞くほど彼女の嘆きがよく分かってきて、本当に哀しい思いをしているのだな、と思った。彼女は本当に哀しそうな顔をしていたので、その理由を聞くと、自分は特に理由がなくてもいつも哀しくてそれは良いパートナーの男性がいないからだと思う、と言った。
クライアントは明確な問題(自分の「悩み」)を抱えてくることもあるが、ゲシュタルトでは必ずしもこれを解決へ導こうとするより、その過程に心を傾けるようにしている。つまり、「そのこと自体」よりも「どのように」ということに集中するのだ。サマンサの場合、私は彼女の哀しそうな声のトーンと憂鬱な気持ちが気になった。もちろん、「問題」に耳を傾けることも大事だが、そればかりにとらわれないように注意しないといけない。ゲシュタルト法では、その人の情緒状態(今感じていること)にまず気を配り、内容は次にくる。
そこで私はあるアクティビティを提案した。彼女に部屋を見回し一番好きな色を選ぶように言った。彼女は壁に描かれた緑の木と同じ緑色を選んだ。
私は彼女にそれを見つめ、お腹に手をあて、その色を見つめ、それにつつまれた素敵な気持ちも一緒に吸い込むように息をするように言った。しかし彼女は泣き出してしまい、目をつぶってしまった。私ははっきりとした力強いトーンで彼女に話しかけ、今の想いから逃げ出してしまわず、しっかりと見つめ、息をし、良い感情をとりいれるよう伝えた。
「今を生きる」ということはゲシュタルト法の根本であり、基盤であるため、よくセラピーでは「今おきていること」を見つめるようにクライアントを促している。そうすることにより、ゲシュタルト法の目的である、「生き生きとした自分を見つける」ことができるのだ。
次に私は部屋にあるものを一つ選ぶよう彼女に言った。彼女は緑のろうそくを選んだ。
私はまた同じようにろうそくを見つめ息をゆっくりするように促したが、彼女はまたも自分の殻の中に閉じこもりそうになった。なので、私は今起きていることから逃げずにそれを見つめるようまた促した。彼女は頑張って目を開けていたが、突然「リビング・デッド」(死んでいるのに生きている)という言葉を発した。私がその言葉の意味を彼女に聞いたところ、「自分には罪悪感がある」と言った。彼女は中絶をしたのだが、未だにその傷をひきずっていたのだ。
やっと彼女の心の悩みの根本的な理由が分かった。人は、人生を生き生きと生きるためにはまずこのような根本的な心の悩みと向き合わないといけないのだ。
なので私は彼女のためにある「儀式」を思いついた。それはろうそくをともし、生まれることの無かった子供への想いを話し(話す言葉は私が考え)、それをしっかりと受け入れ、そして手放すこと。。。つまりろうそくを吹き消すということだった。
彼女がこうすると、次第に安定感がもどってきた。
私は「ろうそくが全て燃え尽きるまで毎日この『儀式』を続けるよう」彼女に提案した。
そして彼女にもう一度緑のろうそくを見つめ、お腹に手をおき、「喜びや嬉しさにあふれた良い気持ち」を吸い込むように言った。今回は、彼女はしっかりとこれをすることができた。
人は憂鬱になっている時には、現在起こっていることにフォーカスせず、すぐに「今まで慣れ親しんで来た嘆き」の中に陥ってしまう傾向がある。そのため、その人を今起こっていることに焦点を戻させることはとても大事なことだ。
鬱な気持ちにひたっている人のための一つの「解毒剤」(対策)は、喜びやうれしい気持ちを取り入れることだ。こうすることにより、人は強くなり「人生で何が起こっても生き抜くことができる」ようになる。


2016年4月1日金曜日

Case #71 - 3つの願い

ナヴィンは趣味として妻とアートのクラスをやっていることを話してくれた。私は彼の奥さんがどのような人かを知りたかったので、聞いてみると、彼は妻は強くたくましいと話した。私は自分の経験からも語り、彼との信頼関係を築きたかったので、自分の妻も強くたくましい女性だということを彼に話した。
私たちは共通のものを見つけることができ、それぞれの妻との関係について話した。彼はまたティーネージャーの息子ともしっかりとした関係を持っていることを話した。私は更に彼との共通点を探るため、色々と質問をし、それぞれの応えに対し自分の経験や思いも話した。
ナヴィンは自分が妻との関係のなかで、どちらかと言うと受け身であるということを話した。彼はほとんどの場合彼女の言うことにしたがっていて、例えば彼女が行きたいレストランへ一緒に行く、というのが定番だった。しかし、ある時彼がいつもの場所に飽きたため違うレストランを選んだのだが、彼女が文句を言わずに彼の意見に賛成してくれたことにナヴィンはとても驚いたことを話してくれた。
彼の話を聞き、ナヴィン達の夫婦関係はナヴィンのイージーゴーイング(寛大)な性格に基づいているのだということが分かった。私は自分もこのようであるということを話し、彼に自分の経験談も語った。
そこで私はあるアクティビティをすることにした。ナヴィンは3つの願いが与えられていて、3つめの願いでは「あともう3個願いをください」とねだらないといけない、というものだった。そして彼にある一日を想像し、朝からはじめ、自分が心から願っていることを、妻にお願いするよう考えてみるように促した。
彼は自分が願っているものをなかなか思いつくことができなかったので、私たちは朝からはじめ少しずつ色々と考えていき、彼にいくつかの例なども与えた。彼は徐々に自分の願いを語ることができ、一日の中で起こる様々な出来事の中で妻に何をお願いするかを思いつくことができた。
このアクティビティはとても簡単ではあったが、彼にとっては大きな変化を伴うものであった。ゲシュタルト法ではいつも物事の核心を探っていくことを重要視しており、人間関係の中でのコミュニケーションを豊かにしていくことを求めている。
このアクティビティでナヴィンはしっかりと自己主張をし、自分の想いをもっとはっきり伝え、彼自身がどのような人間であり、かれが何を求めているかを相手に伝えるチャンスが与えられた。人々は今の人間関係の中身を任せ物事のあるままに流れて行くこともできるが、私たちは人々が人間関係の中で深みを見出すことを求めている。この「深み」を生み出すためには私たちは自分がどのように感じ、何を求めており、自分が誰であるかという、「裸の自分」を相手に見せないといけない。こうすることにより、私たちは相手にほんとうの自分を知ってもらい、相手との親密性を深めることができる。
一般的に女性のほうが「物事を進めていく」要望があり、自分の願いを知ってもらい、自分の想いを聞いてもらい、相手に応えてもらうことを願っているが、同時に男性にしっかりとリードをして欲しい、というバランスを求めている。今回のアクティビティでは、ナヴィンは安全な環境で、このような「リード」をしていくことができ、自分の想いをはっきりと言葉に出すことができた。
今回のアクティビティはただの「練習」だが、このようなシミュレーションによるリスクは必ずある。それは新たな自分を生み出し今まで埋まっていた自己や想いを引き出すからである。ほとんどの場合、このような過程の中では「押さえつけられていた憤り」もしくは「感動」を経験したりあるいは両方の感情を経験することもある。これらのアクティビティを行って行く中で重要なのはただアクティビティをするだけでなく、必ずクライアントの感情の変化にも細心の注意をはらうことだ。

2016年3月17日木曜日

Case #68 - 苦痛を伴う「事実」

マンディーとブライアンは夫婦カウンセリングのために私のところへきた。彼らの結婚は今、危機的な状態にあった。15年の結婚の末、二人の子供も与えられていたが、ブライアンは(4回目の)不倫をしていた。マンディーは40歳という歳で、がんばって結婚生活を守ろうとしていた。彼女は絶対に離婚はしたくなかったのだ。ブライアンはしぶしぶついてきた。
ブライアンは慎重で用心深く、すぐに心を開いてくれなかったので私はまずマンディーとセッションをすすめた。私はまず彼らの結婚生活についての背景と彼女についていくつか質問をした。その後、今の結婚生活について聞いた。彼女は夫とは6年間、親密な関係を持っていないと語ったが、それに慣れることを学んだと言った。彼女は夫がリードしてくれるのを待っていたが、彼がそのようにすることはまずなかった。彼女は友達とも話したが、友人達は「あんまり期待できないよ」と言い、もうあきらめて子供や他のことに注意を向けたほうがいい、とアドバイスしたそうだ。
私は夫婦の親密性、セックス、子供、金銭面、お互いのサポートなど、結婚生活の様々な面でどれほど結婚生活が充実しているか聞いてみた。すると、低いものは5%の充実感から高いものは50%で、親密性というのは一番低いランキングだった。彼女は自分が納得するためには平均30%になったら満足、と言いそのためにはなんでもすると言った。
今度はブライアンにそれぞれの充実面に関して聞いてみた。彼の数値はマンディーより低かったり高かったりするものもあったが、どれもわりと同じような数値だった。しかし、彼は満足するためにはそれらの平均値が75%であることを求めていた。
しかし、この夫婦の問題は今に始まったものではなく、ここ10年続いていたことだった。彼らはお互いのことを語り合わなかったし、難しい話は避けていた。
マンディーは瞑想をすることでストレスを解消していた。ブライアンは自分を無感覚にし、仕事に打ち込むことで忘れようとしていた。このような結果、今の危機的状態が生まれてしまった。彼は不倫相手と別れるつもりはなかったし、彼女もこのままの状態を続けたくなかった。二人とも行き詰っていて、それをお互い語り合い問題解決するすべも持っていなかった。
ブライアンと話したところ、彼はもう完全にお手上げだった。もし解決策があったとしても、彼は夫婦関係を守り、結婚生活をどうにかして改善しようという気は全くなかった。彼はもう先に進んでいて、彼女との結婚をなんとかして抜け出したかったのだ。
これはマンディーにとっては許しがたいものだった。彼女はなんとしてでも解決策を見つけるつもりだった。彼女の愛こそが、情事におぼれている夫の目を覚ませるのだ。
しかし、もし彼が浮気を続けるのなら、彼女は最後までしがみつき、離婚という「自由」を彼には絶対に渡さないと言い張った。私は、彼女の宣言は「愛によって夫の目を覚まさせる」よりも、「バトル」になっている、ということを指摘した。
マンディーにとってこれは辛い事実だった。彼女はあまりにも不安が募っていて、固く決心していたので、ブライアンが今いる状況をまともに見つめることができなかったのだ。
なので、私は彼に、もう本当にこれでおしまいなのか、どのような条件があったとしても彼の決意は変わる事はないのかを聞いた。そして彼は、「はい、そうです」と答えた。
なので私は彼がその気持ちを「供述」するように促した。
マンディーは彼が言っていることをなかなか聞きいれることができなかった。彼女は彼と議論し、なんとか彼を説得しようとし、彼の言ったことを否定し、更には彼を脅迫しようとした。私は彼女の気持ちを理解し、彼女が夫の言い分を聞き取ることができるよう、彼女を支援した。彼女がやっと夫の言ったことを聞き入れることができたとき、「こんなの受け入れられないわ。死んだほうがましだわ」と言った。
私はまた彼女を励まし、どんなにか辛いであろうか、またどんなにか怖いことであるかを伝えた。そして私自身の離婚の体験談を聞いてみたいか尋ね、それを話し、私自身どのようにして辛い時期を通ったかを話した。
私の体験談を聞き少しは落ち着いたようだったが、それでもまだかなりの苦痛の中にいた。ブライアンは今まで麻痺していた感覚が急にもどり、優しくなった。彼はマンディーに彼女のことを大切に思っていることと、彼女の痛みは彼にとっても辛いことだが、彼の彼女への想いはもう親密なものではなくただの友達としてのものだと言った。
この発言も彼女にとっては非常に辛いもので、私は彼女が逃げてしまわないように、助け励ました。
彼女は前のように知らん顔をし、問題否定をしていた頃に戻りたかったが、すでに遅かった。
私の仕事は人々が問題解決をするための助けである。その中で一番大事なことは、各人が心にある真実を話し、お互いの言い分を聞き、そのプロセスで必要な精神的サポートを提供することだ。しかし、夫婦関係の終わりのように荒廃的なものに関しては特に難しい。
今回の件では、マンディーがブライアンの気が進まないにも関わらず、「頑張ってやり続けよう」とすることは無意味だったのだ。彼女の「頑張り」は実は状況をコントロールしようとしていただけで、夫の意見を聞いたとき、それらが露になった。彼女はブライアンが求めているものはどうでもよく、何が何でも結婚を守り続けようとした。
そのため私はマンディーにも自分の「供述」を述べるように促した。それは「私はあなたがどうしたいかはどうでもいいのよ。ただ自分にとって大切なものを守りたいの」というものだった。
これらの言葉を口に出すのは彼女にとっては容易ではなかったが、今の状況をはっきりと言葉にしており、夫も妻の意見をはっきりと聞けてよかったようだった。こうすることにより、お互いが何を求めているのかをはっきりとさせることができたし、実は彼女は「愛で夫の目を覚ませよう」としていたのではなく、夫の想いはお構いなしに自分の必要だけを主張していたということが明らかになった。
これらのものを私は「非・美徳」と呼んでいる。それは私たちの心の暗い部分に潜んでいるもので、自分の行動を「愛」と呼んだり、自分が「被害者」だと思ってて、なかなか自分自身が「相手のことはどうでもいい」と思っていることを認めたくない一面だ。それを認めるのには多大な勇気と多くの精神的サポートが必要になるが、真実を語ることには開放感があり、また何か新しいことが起きるスイッチともなる。
今回のセッションはなかなか認めにくい「事実」を取り扱ったが、このようにして本当のことを露にしない限り、ただいやみと怒りと自己防衛がいつまでも残るだけだ。そして、それぞれの話しがどんどん自分の立場に良いように話が進んでいくだけになってしまう。
言っておくが、「真実を相手に伝える」というのは相手を攻撃するためのものではない。それは、自分にとって本当のことを明らかにするためである。相手がそれを聞くときに、心理的なサポートが必要なときもある。ゲシュタルト法はこのような人と人との間の問題解決に焦点をおいており、また相手に本当のことを語ることは変革をもたらすということも理解している。
こうしてお互いがそれぞれの想いを言葉にする場を提供することで、相互のコミュニケーションの改善を目指している。その中では、ある特定の結果を求めたり、片方を承認したり否定したりするようなことはしない。

2016年3月8日火曜日

Case #67 - 古風な結婚生活か、それとも「今風」の結婚生活か

ハンとユエンは婚約をしていて、彼女は35歳、彼は43歳だった。彼らは二人で解決できない意見のぶつかりあいがあり、私のところに来たのだった。それは、ハンは結婚した後も母親が一緒に住むことを希望していたのだが、ユエンはそれに絶対反対していたからだ。
私は二人のことをもう少し詳しく聞いてから、結婚にあたり一番心配なことは何か、と聞くと二人ともこの問題が一番大きな心配ごとだと答えた。
しかし、彼らは結婚にあたり他にも色々と話し合っていないことがあるのがわかった。そのため私はひとまず今の問題はおき、もう少し広い範囲で物事を見てみよう、と提案した。まず、二人が中国でよくある古風な結婚をどれだけ重視しているか見るため、あるアクティビティを提案した。それは、ひとつの端はかなり伝統的な結婚スタイル、もうひとつの端は今風の結婚スタイルとし、二人がその中でどのように結婚を考えているか判断するものだった。ハンは70%「とても古風な結婚スタイル」で、ユエンはその逆で70%「今風の結婚スタイル」という考えだった。
となると、彼らの間には今の問題よりももっと根本的な問題があり、これからもお互いの考え方の違いによりこれから大きな問題になる可能性はありゆるということを言った。私は彼らに自分の結婚に対する思いを短く述べてもらうことにした。ハンは相手の家族とうまくいくことだった。また彼はユエンには「優しく、女性らしいやわらかさを持っていてほしい」と言った。ユエンは二人が家族から離れ、夫婦としての新しい人生を歩みだすことだったし、彼女は家族にとやかく言われるのではなく、自分で物事を決めていきたいといった。
そこで私は二人に、まず「私の思っていることとあなたの意見は違うから、色々と難しいね。」と言うように促した。こうすることにより、まずはお互いに違いがあることを認めることができるからだ。ハンは最後に「そして君が変わってくれることを願うよ。」と付け足そうとしたが、私は彼をとめた。男女の間でよくある問題は、相手がいずれ変わってくれることを願っているということだった。
なので今度は別の言い方をしてもらった。それは「私たちの間には考え方の違いがあり、私はあなたの考え方に賛成しないかもしれない。でもあなたの立場を尊重する」と。
この言葉は二人ともなかなか言えなく、とくにユエンはこう言うことにより自分の考え方をまったく変えないといけないかのように思ってしまい、なかなか言いたくなかった。しかし、私が「尊重する」というのは相手の考えに屈するということでは無いと説明すると、彼女はやっとその言葉を発することができた。これらの言葉を発しながら、二人とも自分の心の底にある思いがわきでてきた。彼らは相手を変えようと努力するのではなく、ただ相手をそのまま受け入れないといけなかったのだ。このことはいつも男女の間では大きな問題になっている。
しかし、私はユエンが古風な結婚生活を嫌がるのもわからないことはなかった。彼女は家を自分たちだけの住まいにすることに執着していただけではなく、まだ男尊女卑が残る社会でのゆえ、伝統的な考えを持つハンの家族の中で生活し押しつぶされてしまうのが怖かったのだ。
そこで私はジョン・ゴットマン氏の結婚生活に関しての研究結果についてハンに話した。それは男性が奥さんの意見を聞く結婚生活のほうがうまくいっている、という研究結果だった。理由は、一般的な社会生活の中で男性のほうが女性より権利があるからである。
そして私は彼らがこの問題においてお互い同意できる解決策を見つけられるよう、話し合いを促した。確かに物事によってはどちらか選択しないといけないが、クリエイティブな解決策を探しもとめることができる物事もある。
ユエンは最低限、夜は二人だけがいいと言った。
ハンの母親は今までも下の階にある部屋を仕事部屋として使用していたので、昼の間だけ母が来るのはどうか、と提案した。
私は彼女がどう答えるか待った。ユエンは、たまに両親が夕飯に食事にきても構わないが、週末は基本的に二人きりがいいと言った。
ハンはかたい契約書のように色々なルールを作るのはいやだ、と言った。しかし私はお互い同意するためにはしっかりとした境界線を定めるのが重要であることを伝えた。なので二人はしばらくの間話し合い、やっと同意することができた。
なのにハンは急に暗い顔をした。話し合いは案外うまくいき、今までお互い懸念していたことも話し合うことができ、やっと意見をあわせることができたのだ。
なのに、ハンは「どうやって母さんに説明すればいいんだ」と急に言い出した。彼はふたつの大切なものの間に挟まれていて、どうすればいいかわからなかった。
ユエンも泣き出し悲嘆に暮れ始めた。彼女はハンがもとの考えにもどってしまい、古風な考えをまたおしつけてくるのではないかと心配しはじめた。そして彼に文句をいいはじめた。
私は文句を言い始めた彼女をとめて、彼の表情を見るようにと言った。彼女は怒りと恐怖でいっぱいいっぱいだったので、彼を見つめることがなかなかできなかった。両人ともが苦痛の中にいる時は、自分の思いをいったんおき、相手のことを考えるというのは非常に難しいことだ。
ハンは自分の家族に対しての義務感とフィアンセを一番にしたいという二つのものを目の前にし、なんとかしようともがいていたので、セラピーに行く事を提案し、彼よりも心理学的な知識があったユエンに、私はあえてこのようにするよう言った。また彼女が彼を見つめ、彼が今どのような表情をしているかしっかりと見ることができるよう、彼女に集中し、アドバイスをした。私はユエンに、今起こっていることに全神経を向け、彼が今経験している悩みを感じとるようにと言った。それは彼女にとっては非常に難しいことだったが、私は彼女を励まし続けた。私は「愛」という言葉を出し、「あたは彼が今とても悩んでいるということを分かってあげることはできますか?違いがあったとしても、ただ彼をその悩みも一緒に、彼であるからこそ愛することはできますか?」と言った。
彼女はその時自分の恐れを手放すことができ、心に大きな変化が起きた。そして「私たちは必ずしも同じ考えを持っているわけではないけど、あなたを愛するという決断は絶対に忘れないわ」と言った。この瞬間、ふたりの間に深い絆がうまれ、私も思わず感動して涙してしまった。彼らはこの問題を二人で通り抜けることができ、またそれを通してお互いの愛を深めるだけでなく、愛の許容範囲を大きく広げることができた。二人とも自分にとって未知の世界へと飛び込み、そして最後には「新しいところ」へ到達することができたのだ。
私はこれからも二人は様々な問題にぶつかることがあるだろう、と言ったが、これからはどのようにその問題に向き合っていったらいいか心得ているので大丈夫だと言った。
ゲシュタルト法では二つのものがどこかで交わり合うものとして、「違い」という要素に目を向けている。この「違い」の中で接点を見つけるためには自分自身のセルフサポートと相手に対しての興味が必要となってくる。ほとんどの人にとってこれは難しいことで、彼らがこのようにするためにはセラピストなどのサポートが必要となる。このサポートは「具体的にどうするか」という「実践的」なサポートと、その人の心をどう扱うかという「感情」のサポートが必要となってくる。「相違」に直面するということはなかなか難しいことで、怒りを感じたり、怒りや恐怖のなかでふるえる人もいる。今回の場合、ユエンが今起こっていることの中でハンを見つめ、彼を受け入れることができたため、不可能と思われる状況を変えることができたのだ。

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