私は、その経緯を尋ねました。
二人は会社を経営していましたが、お互いのやり方に納得がいきませんでした。月日が流れるうちに、夫は彼女に対して暴力を振るうようになりました。それは何年もの間に渡って続きました。
夫は彼女に離婚を迫り、その後、会社のある従業員に恋愛関係を求めていました。
その女性に拒否されると、彼はメアリーに再婚を申し入れ、彼女はそれを受け入れました。
すると夫は、また暴力を振るうようになりました。
何年か過ぎ、とうとう彼女は暴力に耐えられなくなり、離婚しました。
数年後、メアリーと彼は再び生活を共にするようになり、今回は暴力を振るわれていません。彼女はいまの関係に納得していて、そのことで不幸と感じることはありません。
しかし、この話をしていると、案の定、彼女は心の痛みを感じ始めました。
私は彼女に、どのようにして生きてきたかを尋ねました。彼女は、彼女の母と祖母が暴力こそなかったけれど、夫婦関係において辛く生きてきたことを思い出しました。
私は彼女に、何を感じているかを尋ねました。彼女は「一万本の矢が心臓に刺さっているようだわ」と答えました。
私は彼女の心に痛みがあることを認め、彼女以外の誰かに問題があることを言うよりも、彼女が置かれた環境が彼女に与えた影響について気遣いました。
私は彼女に、男性である私と話すのはどう感じるか尋ねました。彼女は安心だと答えました。
私は彼女にこう伝えました。その矢は男性が刺したものです。男性として私がその矢を外すお手伝いがしたい。
そこで、私は彼女の完全なる了解のもと、彼女に向ってゆっくりと歩いていき、一歩進むごとに一本ずつ矢を抜くというワークを提案しました。
私はそのワークを始めました。抜いた矢を床に置いて、どれだけ彼女の心が痛んでいたかを認識していると伝えました。
私は彼女が、何を感じているか聞いてみました。彼女は痛みを伴う感情を覚えていましたが、同時に彼女の心の琴線に深く触れ、少し解放されたと教えてくれました。
最後に私は、彼女に三本の矢を使った儀式をしてみるよう勧めました。彼女が受け入れられる範囲の儀式です。彼女は矢を埋めるという儀式を選びました。
そこで、私は彼女に空想のストーリーを伝えました。私たち二人は旅に出かけました。森の中に入り矢を埋めました。これらの矢があったという事実を認め、その上で地中に葬るというものです。
この体験の最後は、彼女に明るさを与えるものであり、本当にその儀式を見聞きしているかのようでした。
私は彼女に宿題を出しました。それは、いま行った儀式という名のワークを、毎日三本ずつ矢の数を増やして一日に一回行うというものです。
このワークでは、最初に彼女の背景をより深く理解するために、彼女の心の地図を描きました。そして私は、自分が男性である事実をヒーリングの手順に盛り込みました。私はそれぞれの過程で、ゆっくりと、しかも多くの選択肢をもたらしながらワークを進めました。
私は彼女が口にした、たくさんの矢という例えを本気で取り扱いました。このワークの大切な要素は、何本の矢が抜かれたかということではなく、心の痛みが永久的にそのままにしておくということでもなく、むしろ矢を抜くというプロセスの始まりが、彼女の心に変化をもたらすということでした。いま彼女は自分自身と向き合う方法を身につけました。
ここで用いられたゲシュタルト療法の試みは、彼女の口から提供されたものと言葉を、直接的に扱うというものです。私と彼女の関係が築かれたことにより、一連のワークが成立しています。